行き当たりばったりな台湾取材ではあるが、2度目ともなるとエンタテインメントの世界が俯瞰で見えてきたような気がする。もっとも、羅志祥さえよく知らなかった私に言われたくはないであろう、という気もするが……。

 過去にアジアを結んだ歌姫として思い出すのが、台湾出身のテレサ・テンである。

 来年は生誕60年でいろんなイベントがあるのだと聞き、我々はテレサ・テン記念財団を預かる彼女の実のお兄さんに会いにいくことになった。

 もはや石像となったテレサが、出迎えてくれる。お兄さんの鄧長富 (フランク・テン)さんは、外見的にはテレサにはあまり似ていなかった。

「テレサ・テン記念財団の目標は3つです。一つはテレサの歌声を次世代に残していくこと。二つ目は、これもテレサが大事にしていたことですが、作詞家や作曲家を育てていくこと。三つ目はテレサの精神を受け継ぐチャリティ、ボランティアを彼女の代わりにやっていくということです」

 生誕60年に向けては北京で大きなイベントが予定されている。日本、中国、香港、台湾の4カ国の著名なプロデューサーがパネルディスカッションを行う。

「彼女の音楽、そして流行歌というものが文化に与える影響という大きなテーマを掲げたいのです。そうして台湾のアーティストたちがさらに中国で受け入れられるよう、壁を取り払えるように努力したい」

 日本との意外な関わりもあった。

「テレサ・テンが日本で最後に公演したのは、仙台だったのです。ですから、3.11から2年目を機に、またチャリティコンサートもしたいと思っています」

 なるほど。では、この連載も週刊文春WEBのはしくれですから、聞いてしまいましょう。

「テレサの死の真相については、いろんな人がいろんなことを言っていますが、お兄さんはどう思われますか」

 お兄さんは別段、表情を変えなかった。

「これまで世に出ているものはタイのチェンマイで亡くなったという以外は、正確な情報ではありません。真相を知らないまま、いろんな人が著作を発表しています。私たち財団が自ら本をつくることによって、これまで明らかにしていなかった事実も発表しようと思っています」。

 鄧さんを財団に勤務する女性たちに囲んでもらい、無事撮影は終わった。が、萩庭桂太は私を横目で見て言った。

「実の妹の死の真相は、って、なんて怖いことを聞くんだと思ったよ」

 いやいや、身内だからこそ、誤報なら消滅させたいと思うんじゃないだろうか。私が台北で買ったチャイナ服を来ていると、お兄さんは喜んでとテレサ像との3ショットを撮ろうと言ってくれた。

 頭の中を「つぐない」がぐるぐる回っていた。

 本当は歌いたかった。

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクションが多い。『キティの涙』(集英社)の台湾版は『KITTY的眼涙』(布克文化)の書名で現在ベストセラー中。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

  • コーディネーター:木山善豪

    アジアエンタテイメントのコンサルティングを核とし、中国語圏のエンタメビジネス全般のサポートを手がける。台湾と日本の血統を合わせもつスタッフで構成された組織で、両国での幅広いネットワークとバランス感覚をもつ。
    [OFFICE303] ENTERTAINMENT&MODEL http://www.office303.jp/

取材協力:
エバー航空 http://www.evaair.com/html/b2c/japanese/
「ハローキティジェットが羽田~台北にも登場!」

台北馥華商旅(FORWARD HOTEL) http://www.imvr.net/hotel/fwhotelsj/

ギア・ハウス、ギア・サポート(東京) http://www.gearhouse.co.jp/

撮影:萩庭桂太