台湾から帰国した夜、私はFacebookに大久保麻梨子ちゃんからのメールを見つけた。

「先輩! 朗報です。ブローチ、あったそうです!」

 私はその一文にひれ伏した。心の底で「見つかったとしても、誰かが拾って、売りさばいたに違いない」と、台湾の人を疑ってもいたのである。

 かくして小さな蜂のブローチは私の手元に戻ってきた。奇跡だった。奇跡を起こしてくれたのは、麻梨子ちゃんのような気がしてきた。あのとき、彼女が食い下がる気持ちを見せてくれなかったら、私はあきらめていたと思う。

 スカイプで、お礼を言った。本当に本当にありがとう、と。

「似たようなことが前にもあったから。友達が海老の釣り堀にiPhoneを落としてしまったんです。途方にくれていたら、その時、釣り堀にいた人たちがいろいろ知恵を出し合ってくれて、修理屋さんを電話で教えてくれたんですよ。それで、台湾の秋葉原みたいな修理屋さんにもっていったら、分解して、部品を変えて、なんと水没したiPhoneが元通りになったんです。そんなことがあったから、あきらめちゃいけないと思って」

 そういう話を聞くにつけても、台湾で麻梨子ちゃんがいかに周囲の人たちに恵まれ、しっかり根を張って生きているかがわかる。

「4カ月に1回くらいは日本に帰っていますが、日本にいると、早く台湾に戻らなくちゃと思うんですよね。中国語がダメになってしまうから。それで、スカイプで友達と話したりしています。4日間しゃべらないだけでも『マリコ、中国語が衰えたわね』と言われちゃうから」

 アジアで活躍できる女優を目指し、台北に住んで1年2カ月。

「住みたい、住みたいと思って行ったから。また日本に戻りたいと思うまでは帰らない」

 台湾に住んでいたい。麻梨子ちゃんの、そんな思いを強くしたのが、先日の久しぶりの日本での仕事だった。

  • 出演:大久保麻梨子

    1984年9月7日に長崎県佐世保市生まれ。兵庫県で大学時代までを過ごす。2003年に神戸市内でスカウトされてデビュー。同年、三洋物産主催の「Sea Story Audition 2003 マリンちゃんを探せ!!」でグランプリに。グラビアアイドルとして本格デビュー。テレビでは、バラエティ番組やドラマに出演したが、2008年にグラビアアイドルを引退し、女優への転身を表明。2011年より台湾へ移住し、所属事務所も台湾の事務所に移る。
    http://ameblo.jp/marilog0907/

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクションが多い。『キティの涙』(集英社)の台湾版は『KITTY的眼涙』(布克文化)の書名で現在ベストセラー中。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太