3人デートの締めは、台北駅の近くの新しいホテルのバーであった。

 ここは台北で最も新しく、大人気のヨーロピアン・タイプ。しかしそのヨーロピアン、という感覚は微妙で、台湾のお金持ちの人たちが好きそうなヨーロッパなのである。たとえば長崎のハウステンボスのホテル・ヨーロッパとはまったく違うし、本当にウィーンやパリにあるホテルともまったく違う。

 バーは、まるでGacktの部屋のようであった(ま、行ったことはないが)。

 おどろおどろしいほど暗めで、シャンデリアがありえないほど並び、しかしトイレに行く廊下にはまったく灯りが足りない。ディズニーランドのホーンテッドマンションを思い出すほどだった。そうか、ここはヨーロッパのテーマパークだと解釈すればいいのかもしれない。

 我々は台湾ビールの大瓶を頼んだ。ウエイトレスがついでくれる。ここでまた不思議なことが起こった。

 彼女たちはおそろしく時間をかけ、そーっと注ぐ。

 泡を立てないのである。

「なんで泡を立てないのかなあ」

 萩庭桂太がいぶかり、大久保麻梨子ちゃんはすぐに通訳して聞いてくれた。答えを聞き、くすくす笑っている。

「泡を立てると飲む量が減るでしょ、と言ってます」

 ウエイトレスは真顔であった。

「不思議な国だねえ」

 萩庭桂太はあきれて言った。

 我々は泡のないビールを飲み、過ぎ行く台湾の夜を惜しんだのであった。

  • 出演:大久保麻梨子

    1984年9月7日に長崎県佐世保市生まれ。兵庫県で大学時代までを過ごす。2003年に神戸市内でスカウトされてデビュー。同年、三洋物産主催の「Sea Story Audition 2003 マリンちゃんを探せ!!」でグランプリに。グラビアアイドルとして本格デビュー。テレビでは、バラエティ番組やドラマに出演したが、2008年にグラビアアイドルを引退し、女優への転身を表明。2011年より台湾へ移住し、所属事務所も台湾の事務所に移る。
    http://ameblo.jp/marilog0907/

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクションが多い。『キティの涙』(集英社)の台湾版は『KITTY的眼涙』(布克文化)の書名で現在ベストセラー中。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太