天井の低い地下街は、まるで大阪の昔のアベノ地下センターを思い出させる。

 所狭しとチャイナ服が積まれ、天井からもぶら下がるその店に、大久保麻梨子ちゃん、萩庭桂太、私の3人はなんとかたどり着いた。中国語のできない萩庭と私は、麻梨子ちゃんの後ろにいた。

 麻梨子ちゃんはまた麻梨子警部になり、聞き込みを開始した。とても流暢な中国語だ。一生懸命、私の状況を説明し、ブローチは落ちていなかったか、と聞いてくれている。店のおばちゃんは昼間の人とは違う人だった。突然現れて落とし物がどうのこうのとわーわー言われ、戸惑うばかり。

「まだ今日は掃除していないので、わからない、と言っています」

 私は、見える限りの場所に累々と積み上げられたシャツの山々を見渡して、ため息をついた。

「ありがとう。ここまでついて来てもらえて、聞いてもらえただけで、もう大満足よ」

 麻梨子警部は悔しそうな顔をした。そしてへらへら笑っているおばちゃんに食い下がった。

「もし、見つかったら、ここに電話をください」

 彼女はそこにあったメモに自分の携帯電話を書き込んだ。わざわざ、そこまでしてくれる彼女のがんばりにぐっと来た私は、自分も何かしなくちゃと思った。

「えっと、こんな形です」

 下手な絵で蜂を描いた。その絵が、逆効果にならなければいいなとも思ったが。

 麻梨子警部はその絵を見て満足げに笑ってくれた。すでに店の外にいた萩庭桂太にも礼を言うと、そっか、と残念そうにしてくれた。「一応、店の写真、撮っとこう」と、シャッターを切った。

 萩庭鑑識官のその撮影行動には、まったく意味がなかった。が、私はお二人に本当に感謝して、ようやくご飯を食べられる気分になったのだった。

  • 出演:大久保麻梨子

    1984年9月7日に長崎県佐世保市生まれ。兵庫県で大学時代までを過ごす。2003年に神戸市内でスカウトされてデビュー。同年、三洋物産主催の「Sea Story Audition 2003 マリンちゃんを探せ!!」でグランプリに。グラビアアイドルとして本格デビュー。テレビでは、バラエティ番組やドラマに出演したが、2008年にグラビアアイドルを引退し、女優への転身を表明。2011年より台湾へ移住し、所属事務所も台湾の事務所に移る。
    http://ameblo.jp/marilog0907/

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクションが多い。『キティの涙』(集英社)の台湾版は『KITTY的眼涙』(布克文化)の書名で現在ベストセラー中。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太