さて、ホテルに戻り、私は青ざめた。

「な、ない!!」

 蜂のブローチは、部屋にはなかった。昨日の服にも、一昨日の服にも、どこにもついていなかったのだった。

 無垢の24金であの重さなら、金高騰の今ならたぶん7~8万円にはなる。拾った人がいたら売りさばいてしまうだろう。それよりも何よりも、祖母の形見の大事なお守りである。だいたい、お守りを失くすなんて本当に不吉だ。

 私は一気に落ち込んだ。こんなに落ち込むことはここ数年なかったくらい落ち込んだ。

 夕方、大久保麻梨子ちゃんと萩庭桂太と再び待ち合わせ、ご飯を食べにいくことになった。いい写真が撮れたと、萩庭桂太は上機嫌だ。

 麻梨子ちゃんは「せんぱーい。どこにご飯行きましょうか」と、元気である。 しかし彼女は私が落ち込んでいることにすぐに気づいてくれた。

「どうしたんですか」

 私はどんよりして言った。

「実はお守りのブローチを落としてしまったんだけど、どうしてもなくしたくないものなの。その店にもう一度付き合ってもらえないかしら。台北駅の近くの地下街なんだけど」

「わかりましたっ」

 彼女は突然、女性警察官のようなきりっとした表情になった。

「それは、どこの店ですか。はい、ブラウン・コーヒーの前ね、はい」

 麻梨子警部は電話でゼンゴくんに店の位置を確認してくれ、私は二人を巻き込んでまたまたその地下街のチャイナ服屋に乗り込んだのだった。

  • 出演:大久保麻梨子

    1984年9月7日に長崎県佐世保市生まれ。兵庫県で大学時代までを過ごす。2003年に神戸市内でスカウトされてデビュー。同年、三洋物産主催の「Sea Story Audition 2003 マリンちゃんを探せ!!」でグランプリに。グラビアアイドルとして本格デビュー。テレビでは、バラエティ番組やドラマに出演したが、2008年にグラビアアイドルを引退し、女優への転身を表明。2011年より台湾へ移住し、所属事務所も台湾の事務所に移る。
    http://ameblo.jp/marilog0907/

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクションが多い。『キティの涙』(集英社)の台湾版は『KITTY的眼涙』(布克文化)の書名で現在ベストセラー中。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太