2011年7月に神奈川県の葉山マリーナで行われたジャズ・フェスティヴァル、「真夏の夜のJAZZ in HAYAMA 2011」で、山中千尋のピアノの音は湘南に集まったオーディエンスを魅了した。

 山中がドラムスとベースとのトリオ編成でステージに現れたのは、海から吹く風に潮の匂いが濃く感じられるようになった夕刻。力強いタッチでスタンダードナンバー「Sing Sing Sing」を演奏した。高揚した客席に向かい、今度は語りかけるようなフレーズを奏で始める。

「夏のクラクション」。

 1983年にリリースされた稲垣潤一のヒット曲だ。夏、海沿いの道をクルマで走りながら、過ぎ去った恋を思い出す切ない物語。日本の歌謡史に輝くヒットメイカー、作曲家の筒美京平による印象的なイントロを山中が弾き始めると、ステージに稲垣が登場し、夏のマリーナのジャズ・フェスにあまりにも似合うこのバラードを歌い上げた。

 ポップ・ソングは、それがヒット曲であればあるほど、リスナー側はオリジナルのアレンジ、オリジナルの楽器編成の音を大切にしている。初めてその曲を聴いたときの音は、曲と出会った時期の自分の記憶とともに脳に格納されているからだ。

『ビコーズ』 2012.07.18発売

【左】初回限定盤 SHM-CD(+DVD) 3,500円(税込)UCCJ-9126
【中央】初回限定盤 SA-CD ~SHM仕様~ 4,500円(税込) UCGJ-9004
【右】通常版 SHM-CD 3,059円(税込) UCCJ-2102
http://www.universal-music.co.jp/chihiro-yamanaka/

  • 出演:山中千尋

    福島県生まれ、群馬県育ち。ジャズ・ピアニストで作曲家でアレンジャーでプロデューサー。米ボストンのバークリー音楽大学を首席で卒業し、アルバム『リヴィング・ウィズアウト・フライデイ』でデビュー。『アピス』『レミニセンス』などのアルバムを発表。7月18日に、「イエスタデイ」「ミッシェル」「ユア・マザー・シュッド・ノウ」などビートルズのカヴァーにオリジナルの「インサイト・フォーサイト」「イット・ワズ・ア・ビューティフル・ミニット・オブ・マイ・ライフ」を加えた10曲(通常盤/SACD~SHM仕様~盤はボーナストラック入りで11曲)を収録した『ビコーズ』をリリース(ユニバーサル ミュージック)。7月28日(金)に神奈川県の葉山マリーナで開催される「真夏の夜のJAZZ」に出演。9月7日からはジャパン・ツアーがスタート。

    山中千尋 オフィシャルサイト http://www.chihiroyamanaka.com/
    山中千尋 公式twitter https://twitter.com/#!/ChihiroYamanaka
    真夏の夜のJAZZ in HAYAMA 2012 http://microsites.universal-music.co.jp/event/jazz2012/

  • 取材・文:神舘和典

    1962年東京都出身。音楽を中心に書籍や雑誌のコラムを執筆。ミュージシャンのインタビューは年間約70本。コンサート取材は年間約80本。1998年~2000年はニューヨークを拠点にその当時生きていたジャズミュージシャンのほとんどにインタビューを行った。『ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)、『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。

    新潮新書 http://www.shinchosha.co.jp/writer/1456/
    幻冬舎新書 http://www.gentosha.co.jp/book/b4920.html

撮影:萩庭桂太