今年、デビュー50周年を迎えるビートルズ。その曲をジャズ・ピアニストの山中千尋がカヴァーしたのが、7月18日にリリースされる『ビコーズ』だ。

 アルバム・タイトルで1曲目に収録されている曲「ビコーズ」は、1969年に解散を決めたビートルズが、「最後に自分たちの最高傑作を作ろう!」と誓ってレコーディングしたロック&ポップの金字塔『アビイ・ロード』に収められている。

「最高傑作を作ろう!」と決めて本当に最高傑作を作ってしまうのが、ビートルズのすごさだ。「イエスタデイ」「ヘルプ!」「ヘイ・ジュード」など、ビートルズには誰もが知るヒット曲がいくらでもある。しかも、山中のこのアルバムには「イエスタデイ」があり、「ミッシェル」があり。つまり、名曲も収められている。

 しかし、あえてアルバム・タイトルにしたのは「ビコーズ」。名盤『アビイ・ロード』の1曲ではあるものの、どちらかというと目立たないナンバーだ。

 なぜこの曲を?

「個人的なリベンジの意味があるんです」

 音楽専門の高校に通っていた時、合唱の授業で、山中は「ビコーズ」を歌わされた。

「ビートルズならば生徒が喜ぶと思い込んでいた先生の発案でした」

 オリジナルは、ビートルズによるコーラスで構成されている。

「でも、この曲のコーラスは、10代の私には呼吸が苦しくて。それ以降、『ビコーズ』を気持ちよく聴くこともなくなりました」

 いつか自分にとっての「ビコーズ」をやりたい――。そう思い続けていた。山中版「ビコーズ」はタブラがフィーチャーされ、テンポよく始まる。導入部を聴いただけでは、ビートルズの曲「ビコーズ」だとは、ちょっと判断できない。

 しかし、やがて始まる主旋律を奏でるピアノの音色は色彩鮮やか。中盤ではジョージ・ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」のフレーズも挿入されて楽しい。

『ビコーズ』 2012.07.18発売

【左】初回限定盤 SHM-CD(+DVD) 3,500円(税込)UCCJ-9126
【中央】初回限定盤 SA-CD ~SHM仕様~ 4,500円(税込) UCGJ-9004
【右】通常版 SHM-CD 3,059円(税込) UCCJ-2102
http://www.universal-music.co.jp/chihiro-yamanaka/

  • 出演:山中千尋

    福島県生まれ、群馬県育ち。ジャズ・ピアニストで作曲家でアレンジャーでプロデューサー。米ボストンのバークリー音楽大学を首席で卒業し、アルバム『リヴィング・ウィズアウト・フライデイ』でデビュー。『アピス』『レミニセンス』などのアルバムを発表。7月18日に、「イエスタデイ」「ミッシェル」「ユア・マザー・シュッド・ノウ」などビートルズのカヴァーにオリジナルの「インサイト・フォーサイト」「イット・ワズ・ア・ビューティフル・ミニット・オブ・マイ・ライフ」を加えた10曲(通常盤/SACD~SHM仕様~盤はボーナストラック入りで11曲)を収録した『ビコーズ』をリリース(ユニバーサル ミュージック)。7月28日(金)に神奈川県の葉山マリーナで開催される「真夏の夜のJAZZ」に出演。9月7日からはジャパン・ツアーがスタート。

    山中千尋 オフィシャルサイト http://www.chihiroyamanaka.com/
    山中千尋 公式twitter https://twitter.com/#!/ChihiroYamanaka
    真夏の夜のJAZZ in HAYAMA 2012 http://microsites.universal-music.co.jp/event/jazz2012/

  • 取材・文:神舘和典

    1962年東京都出身。音楽を中心に書籍や雑誌のコラムを執筆。ミュージシャンのインタビューは年間約70本。コンサート取材は年間約80本。1998年~2000年はニューヨークを拠点にその当時生きていたジャズミュージシャンのほとんどにインタビューを行った。『ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)、『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。

    新潮新書 http://www.shinchosha.co.jp/writer/1456/
    幻冬舎新書 http://www.gentosha.co.jp/book/b4920.html

撮影:萩庭桂太