プロのモデルvs読モ
伊藤ニーナ
- Magazine ID: 1488
- Posted: 2012.07.02
世の女性誌というものには流行を身にまとったモデルがあまた登場する。昨今、そのモデルには2種類存在する。
一種類は、プロのモデル。
今週、登場する伊藤ニーナは、プロのモデルになりたくて一歩を踏み出した女の子である。
「え、プロ以外にモデルがいるの?」。そう思われた週刊文春読者の紳士淑女は多かろう。実はここ10年以上、プロのモデルではないモデルが、女性誌では人気を博してきたのである。
もう一種類の、いわゆる「読モ」と呼ばれる、読者モデルというものだ。
たとえば「読モ」から有名になった人といえば、最近では原宿の読モ雑誌「KERA」から登場したきゃりーぱみゅぱみゅ、「CanCam」から出た押切もえ、キャリアの長いところでは「JJ」から登場した黒田知永子らがいる。あの叶姉妹も、もとはといえば「25ans」の読モである。
彼女たちはまず私服を着こなすことで人気を得ていった。読者の視点に立てば「ちょっと頑張ればこうなれるかも」が魅力だったのだ。
私は30代のとき、某主婦ファッション誌で7年間、連載を持たせていただいていた(そのときの著作は『東京二世帯住宅物語』、『大阪の女はえらい』、『大阪のうまいもん屋』と3冊、光文社電子書籍になっていますのでよろしく♡)。
その主婦ファッション誌には、読者モデル上がりの契約記者がたくさんいて、その人たちが「旦那さんが商社に務める奥様」とか「元CAの奥様」を次々に誌面に引き連れてきた。まるで美人数珠つなぎのようにおしゃれな読モが相次いで登場してくるという出版ビジネスモデルになっていたのである。そして美しいファッションを身にまとう記者たちも、雑誌に顔を出した。
器量は十人並みだし、筆で身を立てたいと思いつつも、私はその元読モ奥様な人たちの渦の中にいた。
校了の日ともなれば、編集部は美しき読モ奥様の巣窟と化す。皆、最新のファッションに身を包み、いけてるお店に通い、ブランドものの時計やジュエリー、バッグをさりげなく自慢しあう息詰まる空間だ。あるとき、元読モ記者の一人にこう尋ねられた。
「ねえ、新しいバーキンのダルメシアンって知ってる?」
バーキンというのは、あのエルメスというブランドの、車くらいの値段がするバッグのことである。原稿をチェックしていた私はめんどくさげに答えた。
「ああ、あの白に黒のブツブツの……、気持ちの悪い……」
すると言い終わらないうちに、目の前にそのダルメシアンがどん、と音を立てて置かれたのである。
旦那がお医者様で、日替わりでバーキンをもってくるAさんが、うるうるした目でこちらを睨んでいた。その瞬間、私の背中は鳥肌でダルメシアンになった。そして記憶喪失になったかのように言うしかなかったのである。
「あら~。素敵~。新作だわ~。さすがAさん、すご~い」
そして興味深げなそぶりで、Aさんのバーキン・コレクションについて、しばし聴き入ったのであった……。
バブル時代を経てきた女性たちのブランド自慢はすさまじかった。雑誌に出ることはステイタスで、そこに載る自分の姿にアイデンティティをもつ人も多かった。そして自らのファッションセンスを提唱していく立場を維持し続け、洋服を着るプロとなった人たちが生き残っていった。
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出演:伊藤ニーナ
1992年福岡県生まれ。2011年に「GINGERスターオーディション モデル部門」でグランプリを受賞。専属モデルとして活躍中。T168 B81 W58 H88 (株)テンカラット所属。
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取材・文:森 綾
1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクションが多い。『キティの涙』(集英社)の台湾版は『KITTY的眼涙』(布克文化)の書名で現在ベストセラー中。
http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810
撮影:萩庭桂太