藤原道山は浜離宮恩賜公園で撮影することになった。こじんまりした尺八のケースを抱えて現れた彼はとてもアラフォーには見えない。

「その大きさのケースのなかに入っちゃうものなんですね」

 道具好きの萩庭桂太はやっと興味を示してきたようだった。道山は、丁寧に楽器について解説してくれる。

「一尺八寸だから尺八です。だいたい一尺から三尺四寸くらいのものまであるんです。三尺四寸なんて、しばらく吹いていると肩が抜けそうになりますけどね。もともとは雅楽の楽器で、平安時代にリストラされているんですよ。合奏するとあまり聴こえないという理由で。もうちょっと後の時代になると、刀がついているものも残っていて、武器になるという説もあります。明治時代からまた見直されて、琴と合奏されることが多くなりました」

「何本くらいもってらっしゃるんですか」

「50本くらいですか。骨董的価値のあるものは高価なものもありますが、とにかく楽器はどういう音楽をやるかということと、技量に合っているかどうかが大切です」

 彼が尺八を始めたのは10歳のとき。それまでには琴も弾いていたという。

「祖母が琴をやっていましたので。身近な楽器でした。もともとクラシックピアノを弾いていた叔父と、ぼくが尺八を吹き始めた頃にジャズを弾くようになってセッションし、ぼくもジャズに興味をもちました。アプローチ次第でかっこいいことができる楽器だなと思ったんです」

 師事していた山本邦山は後に人間国宝になった。東京芸術大学音楽学部邦楽科在学中に安宅賞を受賞、御前演奏も果たしている。

「琴の延長線上にあるという感覚もありますが、琴より自由な気がしています」。

 連れ立って浜離宮恩賜公園を歩く。まだ咲き残るソメイヨシノもあり、満開の八重桜もあでやかだ。ふと尺八を取り出し、静かに吹いてくれた。

 ♪ さくら さくら ……

 なんて素敵。聴いていると、囁き声のようにも感じられる。低く、雅やかに。まるで静かに老いた桜の精霊が歌っているようだ。スタジオでは「格好良すぎてつまらない」と言っていた萩庭桂太も、いいねえ、と目を細めた。そして降伏した。

「いいや、もう、かっこ良く撮るよ。女の子がひゅーひゅー言う声が聴こえてきた」

(取材・文:森 綾)

  • 出演:藤原道山&SINSKE

    尺八の新たな魅力を拓く若き第一人者として邦楽のみならず幅広いジャンルで活躍中の藤原道山(ふじわらどうざん)。ヨーロッパで研鑽を積み数多くの受賞歴をもつマリンバ奏者SINSKE(シンスケ)。二人による 尺八とマリンバのユニットは、まるでオーケストラのように多彩。ラヴェル作曲「ボレロ」など「世界最小編成オーケストラ」の愛称で各地のコンサートやイベントで非常に高い評価を得ている。それぞれのソロも交え、邦楽、クラシック、オリジナル作品という幅広いレパートリーで構成する初の全国ツアーが、5月6日の長野(松本)を皮切りにスタートしている。
    http://www.dozan-sinske.com/
    http://www.youtube.com/watch?v=PMxNKVFDy0c

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクション『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)など多数。映画『音楽人』(主演・桐谷美玲、佐野和眞)の原作となったケータイ小説『音楽人1988』も執筆するほか、現在ヒット中の『ボーダーを着る女は95%モテない』(著者ゲッターズ飯田、マガジンハウス)など構成した有名人本の発売部数は累計100万部以上。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太