藤原道山、SINSKE。先頃、4年目の二人のツアーに関して、公式のYouTubeが上がった。

 まあこれを見ていただければ全貌がわかるのであるが、ひとつだけ、ここに明かされていないのが、アルバムの発売だという。

 萩庭桂太と私は、二人が収録をするという赤坂に向かった。素晴らしい最新設備のスタジオだった。

 SINSKEが一人で細部のレコーディングをしている間、私は藤原道山に話を聴くことができた。尺八とマリンバ。二人の出会いはテレビ番組だったという。

「SINSKEさんとは音楽に対するアプローチが似ていると思いました。彼もぼくも子どもの頃から楽器を始め、クラシックからスタートしながら、ジャズやポップス、自作の曲など幅広くどん欲に音楽を楽しみながら演奏している。演奏後に話してみると、人柄も気さくで日常的に興味のあることも似通っている。なおかつ、刺激も感じる。尺八は音域的にチェロと同じでメロディを奏でる楽器。対してマリンバはトレモロでメロディを奏でることはできるけれど、打楽器の要素もあってバッキングにも回れる。二つの楽器は相性もよく、これは何かできそう、うまく二重奏になるという気がしたのです」

 再度、その「何かできそうだ」という予感が具現化する出来事が起こった。きっかけを与えてくれたのは、狂言師の野村萬斎氏だった。

「萬斎さんとは以前から交流があったのですが、父君の万作さんが人間国宝になられるパーティがあり『父はボレロが好きなので、何か洋楽器と一緒に演奏してくれませんか』と頼まれたのです。その会場はホテルで、ピアノを入れることはかないませんでした。そこでギターかなとも考えたのですが、伴奏もメロディもでき、弦楽器的な要素もあるマリンバはどうか、とひらめいたんです」

 そして、道山&SINSKEの『ボレロ』が誕生したのだった。

「それが大変好評だったので、これはオーケストラの曲でもいけるねと。その次に『展覧会の絵』をやったり、アヴェマリアをやったり、日本歌曲をやったり。マリンバの打音があることでリズムができるのが、尺八のぼくにとっては何よりありがたい。エッジ感が出るんですよ。コンサート後は、二人ともワインが好きで飲みながらいろいろ話をして気づいたら朝5時、ということもありました」

(取材・文:森 綾)

  • 出演:藤原道山&SINSKE

    尺八の新たな魅力を拓く若き第一人者として邦楽のみならず幅広いジャンルで活躍中の藤原道山(ふじわらどうざん)。ヨーロッパで研鑽を積み数多くの受賞歴をもつマリンバ奏者SINSKE(シンスケ)。二人による 尺八とマリンバのユニットは、まるでオーケストラのように多彩。ラヴェル作曲「ボレロ」など「世界最小編成オーケストラ」の愛称で各地のコンサートやイベントで非常に高い評価を得ている。それぞれのソロも交え、邦楽、クラシック、オリジナル作品という幅広いレパートリーで構成する初の全国ツアーが、5月6日の長野(松本)を皮切りにスタートしている。
    http://www.dozan-sinske.com/
    http://www.youtube.com/watch?v=PMxNKVFDy0c

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクション『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)など多数。映画『音楽人』(主演・桐谷美玲、佐野和眞)の原作となったケータイ小説『音楽人1988』も執筆するほか、現在ヒット中の『ボーダーを着る女は95%モテない』(著者ゲッターズ飯田、マガジンハウス)など構成した有名人本の発売部数は累計100万部以上。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太