SINSKEがマリンバ奏者となったのは意外と遅く、大学に入ってからだ。しかし桐朋学園大学音楽学部打楽器科を首席で卒業し、ベルギー政府特別奨学金の資格を得て留学。ベルギーのブリュッセル、アントワープ両王立音楽院、各打楽器科を首席で卒業している。

「ピアノ教師だった母親に3歳からピアノを教えられていたんですが、中学生くらいって反抗したくなるでしょう。それでサックスでもやりたいなと思って吹奏楽部に入ったんです。そうしたら打楽器だったらあいてるよと言われて。あのときサックスを選んでいたら、ミュージシャンになっていたかどうか。自分に向いているものに出会えるのも運ですよね。それに触れないで少年時代を送っていたら、埋もれてしまっただろうなあ。ぼくは今、マリンバ以外にできるものがないですからね」

 その後、海外のコンクールで入賞を重ね、30歳で日本に戻ってきた。

「家族はみなワインが好き。ぼくはパスタづくりが得意で、年間400食くらいつくるんじゃないかな。最近のヒット作は塩麹といかの塩辛。もともと麺類が好きで、中学生のときにはうどんにはまって、足で踏んでこねて自作したこともあるくらいです。麺類って世界的にあるものですからね。中華もインドもイタリアも旅できる。美味しいものを美味しいと感じられる心のフリーさってすごく大事だと思う。どんなに忙しくてもそういう瞬間を五感で楽しめること。それが音楽にもきっと通じていくと思うんです」

 幼くして父親を亡くし、母親と暮らしてきた。でも彼には寂しさよりも、日常を全身で楽しめる豊かさのようなものが感じられる。たどり着いた原始的な音色の楽器は、彼にとって母なるもの、に近いのかもしれない。

 (取材・文:森 綾)

  • 出演:藤原道山&SINSKE

    尺八の新たな魅力を拓く若き第一人者として邦楽のみならず幅広いジャンルで活躍中の藤原道山(ふじわらどうざん)。ヨーロッパで研鑽を積み数多くの受賞歴をもつマリンバ奏者SINSKE(シンスケ)。二人による 尺八とマリンバのユニットは、まるでオーケストラのように多彩。ラヴェル作曲「ボレロ」など「世界最小編成オーケストラ」の愛称で各地のコンサートやイベントで非常に高い評価を得ている。それぞれのソロも交え、邦楽、クラシック、オリジナル作品という幅広いレパートリーで構成する初の全国ツアーが、5月6日の長野(松本)を皮切りにスタートしている。
    http://www.dozan-sinske.com/
    http://www.youtube.com/watch?v=PMxNKVFDy0c

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクション『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)など多数。映画『音楽人』(主演・桐谷美玲、佐野和眞)の原作となったケータイ小説『音楽人1988』も執筆するほか、現在ヒット中の『ボーダーを着る女は95%モテない』(著者ゲッターズ飯田、マガジンハウス)など構成した有名人本の発売部数は累計100万部以上。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太