彼女は40歳。日本の女性誌を2つ台湾に持ち込み、クライアントを集めて台湾版を成功させ、次に中国に持ち込もうとしたが、かの地ではまんまと持って行かれてしまったという。しかしこれまでに稼いだお金で今は悠々自適、役員として新しい雑誌の立ち上げを考えているという。リッチやんかー。

 我々、萩庭桂太 YOUR EYES ONLYご一行様は、金曜日の台北のすべての美味しそうな店に満員御礼で断わられ、しょぼいファミレスでスパゲティとカレーだけの食べ放題に泣きそうになった後に、その話を聴いた。

「その人に会いたいですねえ!」

 私は最後の希望をかけてつぶやいた。もう萩庭桂太の財布など当てにしていられない。可哀想に、ほとんどのご飯代をコーディネーターのキヤマくんが支払っている。その女編集長なら、きっとイケてるお店で美味しいお酒の1杯くらいごちそうしてくれるに違いないだろうと考えたのだ。

 クタクタな顔のヘアメイク・小鳥ちゃんと疲れ果てたスタイリスト・NYXくんを見送り、週末の浮き立つ喧噪の街角で、キヤマ、萩庭、森の三人は女編集長を待った。果たして彼女はものすごくでかい白いベンツを自分で運転してやって来た。「早く乗れ」と言う。ウエーブの茶色い髪のボブ。薄暗いし、横を向いているのでどんな顔かわからないが、きっと美人に違いない。その美貌で、たかだか40歳であるにもかかわらず役員編集長にまで上り詰めたんだろう。

「ホテルWに行きましょう」

 行く場所が違う。やっぱり来てもらってよかった。これで台湾取材にひとときでもいい思い出ができるに違いない。「車を置いてくるから先に行っていてくれ」という彼女の言葉に従い、我々はロビーで彼女を待った。

「ハーイ!」

 現れた女社長は、顔は柴田理恵であった。そうか実力で役員なんだ……、と私は思った。

 私たちはホテルWのBARに入ろうとしたが満員。カフェも満員。レストランも満員。何かに祟られているようだ。編集長は別段、申し訳ないという顔でもなく(当たり前だ。呼び出したのはこっちなのだから)次から次へと「イケてる店」を探して電話してくれていたが、全部アウト。台湾は好景気なのであろうか。まるで日本のバブルのときみたいじゃないか。

「いや、けっして好景気なわけじゃない。私が知ってる店が全部人気があるだけなのよ」

 と、編集長は無表情に言う。

 そして1時間ほど経ったころ、結局、昼間の取材場所だったホームホテルのBARだけが空いていることがわかった。私がエレベーターからいきなり取材をさせられたあのホテルのBARだ。なぜだ。なぜあそこなんだ!

 とりあえず、そこでの編集長の台湾の出版界の話はとても面白かった。ただ疲れていた私は殆ど何も覚えていない。朦朧としてただひたすらジントニックを飲みまくっていた。どれくらい時間が経ったのだろう。

 午前2時。

 気がつくとしゃべり続けていたはずの編集長がいない。

「あら? 編集長は」

 キヤマくんが申し訳なさそうに言う。

「年下の彼氏が迎えに来て帰りましたよ。彼女は飲んでるから運転できないって電話してました」

 その言葉に朦朧としていた脳にまた血液が逆流した。

「そ、そんな、ぜ、贅沢な!」

 隣でおなかの出た単なる仕事仲間の中年カメラマンが今にも鼻提灯をふくらませそうにうたた寝している。

 なんでだ! なんだ、この差は!

 お金も地位もある彼女に竹野内豊みたいな年下の彼氏がいたかと思うと、私はうずくまって号泣しそうになった。おまけに、あんた、シバタリエやんか! 女として、人生総合点での、完璧なる敗北だ。

 その翌朝6時半、私は一泊5000円の寒い部屋で、独りシャワーを浴びた。シバタリエと竹野内豊の顔を思い浮かべながら。

(取材・文:森 綾)

  • 出演:伊林模特兒

    中華圏の数々の大型ファッションショーで活躍する仲良し三人組モデル、ステイシー(左) キャリン(中央) ハンナ(右)。

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクション『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)など多数。
    映画『音楽人』(主演・桐谷美玲、佐野和眞)の原作となったケータイ小説『音楽人1988』も執筆するほか、現在ヒット中の『ボーダーを着る女は95%モテない』(著者ゲッターズ飯田、マガジンハウス)など構成した有名人本の発売部数は累計100万部以上。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

  • ヘアメイク:小鳥

    スタイリング:NYX

衣装協力:ARTIFACTS http://www.artifacts.com.tw
コーディネート・ブッキング:木山善豪(OFFICE303) http://www.office303.jp
協力:エバー航空 http://www.evaair.com/html/b2c/japanese/
ロケ地:西門新宿/獅子林(恐怖デパート)

撮影:萩庭桂太