安田カナが俳優という仕事を意識したのは、8歳のとき。テレビでNHKの大河ドラマを見ていたときのこと。
「西田敏行さん主演の『八代将軍吉宗』(1995年)に、中村梅雀さんが吉宗の息子・家重役で出ていたんです。言語障害がある、難しい役柄ですよね。涙とよだれだらけで浴室で暴れるシーンを見て、衝撃を受けました。家族に、『この人は病気なの?』って聞いたら、これはドラマで、これをやっている人は演技でこうしているんだと教わった。『これは役者さんていうお仕事なんだよ』って聞いて、なんとなく私は、『これをやりたいな』と思ったのを覚えています」
 当時、この中村梅雀さんの真に迫る名演技は、大きな話題になった。
 安田はその、芝居の道へ進むきっかけとなった中村梅雀さんと今回、『ミュージカル ダブリンの鐘つきカビ人間』で初共演!
「ついこの間、稽古の合間に梅雀さんにその話をさせていただいたんです! 感動しました。『八代将軍吉宗』は梅雀さんが40歳くらいのときの作品で、そういう障害がある人物が大河ドラマに登場するのはとても珍しいことだったんですって。だから綿密に下調べをして準備して、真摯に演技したとおっしゃってました。〝だから当時のカナちゃんみたいな子どもにも、家重の存在感が伝わったのかな、うれしいな〟って梅雀さんも喜んでくださいました」
 俳優の道を目指す、というと、家族の反対がつきものだけど。
「ウチは、母がゴスペルシンガーで、ずっと母のステージを見てました。今は亡き亀淵友香さんの率いるヴォイス・オブ・ジャパンのクワイヤ(コーラスチーム)の一員で、日本中、ときには世界各地に公演に行っていたんです。で、父は、音響さんです。ちなみにお祖父ちゃんはハンコ職人なんです。だからスーツを着て出かける人がいない環境でした。みんな好きなことをやっていたし、お金というのは好きなことをやって稼ぐものだって、思ってました。役者なんてやめておけ! とは、誰にも言われずにここまで来ました(笑)」
 高校を卒業後は俳優予備軍が多く在籍する、桐朋学園芸術短期大学演劇専攻科へ。順調に俳優への道を進み始めたように見えるけれど、続きは明日へ!