インタビューをしたのは、『わたくしどもは。』が公開される直前のこと。記者会見や取材が殺到する中、馴染みのYEOならと、短い時間ながら快く対応してくれた。
「この映画がどう受け止められるのか、今現在、まったくわかりません(笑)。もちろん小松菜奈さんとか松田龍平さんとか、大竹しのぶさんとか、メジャーな方がたくさん出てくださっているので、そういう意味でファンにアピールするかもしれない。でも反応は、どうだろう? 興行がからんでくるので、ワクワクするというより、ちょっと胃が痛い、かな」
 それはほとんどの映画監督が、口にする言葉。どんなにベテラン監督でも、映画が公開される直前は、観客の反応がどう出るか、不安でたまらない、らしい。
 先に見ちゃった者として言えるのは、この作品、見ると心が、すっと落ち着く。やる気が出るとかスカッとするとか号泣するとか、そんな手軽なカタルシスではなく、心の澱がすっと取り除かれたような感覚。観た後で何度も何度も映像が心の中に蘇って、日常の雑事に囚われていた意識を、洗い流してくれる。
 こういう映画、昔見たことある、と思い出したのは、鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』。設定も物語も全然違うけど、幽玄でファンタジーで上質な空気感は、どこかでつながっているような。
「日本人の監督では、小津安二郎さんも鈴木清順さんも好きです。ロベール・ブレッソンやペドロ・コスタ、ジャン=リュック・ゴダールの作品などはよく見ます。彼らはみな巨匠と呼ばれる監督ですから、映画を作る人間は彼らから何かしら影響を受けていると思います。ただ私の作品に良い影響を及ぼしているかどうかは、まだわかりません(笑)。その答えは、これから作品を作り続けた時に、わかってくるのではないかと思っています」
 そして、もうひとつ。この映画を見ると、佐渡に行ってみたくなる。佐渡は今年、世界遺産の登録を待ち望んでいるそうで。佐渡がトレンドになる日も、遠くないのかも。
 さて、9年ぶりにYEOに登場してくれた富名監督、次は、いつ出てくれます? 
「次の作品が成就するように、今頑張るしかないので、次はいつでしょうね(笑)。そんなにイマジネーション豊かな人間じゃないけど、コロナで空いてる時間に書いたシノプシスが2~3本あるので、そのうちどれかが実現するのかもしれない。もしかしたらこれから書くものが実現するのかもしれない。どっちにしろ、目の前にあることをやるしかないです」
 YEOも、また取材できる日まで、頑張ります!

  • 出演 :富名哲也 とみな てつや

    北海道釧路出身。ロンドン・フィルム・スクールで映画を学ぶ。2013年、短編『終点、お化け煙突まえ。』が第18回釜山国際映画祭の短編コンペティションに選出される。2015年『ブルー・ウインド・ブローズ』の企画が釜山国際映画祭のASIAN CINEMA FUNDにて助成金を獲得。2018年長編初監督作品『ブルー・ウインド・ブローズ』は第68回ベルリン国際映画祭ジェネレーション・コンペティション部門とBerlinare Goes Kiezに選出された。ウクライナの映画祭で撮影賞、バングラデシュでは作品賞を受賞。長編企画『わたしくしどもは。』はベネチア国際映画祭が実施する新鋭監督を支援するプロジェクト、Biennale College Cinemaに選出された。同企画はTIFFCOM TOKYO-GAP FINANCING MARKET HongKong=Asia Financing Foramなどの企画マーケットにも選出。長編第二作『わたくしどもは。』は香港国際映画祭INDUSTRY傘下のHKIFF COLLECTIONとワールドセールス契約を結んだ。2023年10月、同作は第36回東京国際映画祭コンペティション部門にてワールドプレミアを迎えた。

    畠中美奈 はたなか みな

    鹿児島県出身。大学卒業後、(株)久米設計の設計室に勤務。その後プロレス団体UWFインターナショナルの広報・企画部長を務める。安藤忠雄設計の大手前アートセンターにて黒田アキ展をプロデュース。長野パラリンピック冬季競技大会開会式の制作チーフ。その後写真展の制作、俳優のマネジメントを経て、2013年から冨名哲也監督とTETSUYA to MINA film(テツヤトミナフィルム)を始めた。以来、富名哲也監督全作品、『終点、お化け煙突まえ。』(2013)『ブルー・ウインド・ブローズ』(2018)『わたくしどもは。』(2023)の企画・プロデュース・キャスティングを担当している。

    映画 『わたくしどもは。』

    名前も過去も覚えていない女(小松菜奈)が目を覚ますと、そこは見知らぬ島の、建物の中。住民たちと暮らし、清掃の職を得て働き始める。他の住民たちも記憶を持たぬまま、つかず離れずの距離感の中、穏やかな時が流れる。偶然知り合った男(松田龍平)に惹かれ語り合うようになるが、いつの間にか住民たちがひとりずつ姿を消していき・・・・。

    映画『わたくしどもは。』公式サイトhttps://watakushidomowa.com/
     

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    取材/文:岡本麻佑

    フリーライター歴30余年。女性誌、一般誌、新聞などで活動。俳優・タレント・アイドル・ミュージシャン・アーティスト・文化人から政治家まで幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。単行本、新書なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/