いよいよ映画『わたくしどもは。』が5月31日に公開された。小松菜奈と松田龍平がW主演ということで注目されていたものの、内容については、ミステリアスな予告編が流れるだけ。いったいどんな作品なのか、なんの予備知識もなく鑑賞したら、圧倒された。
 舞台は、佐渡島の金山跡地。佐渡金山の、頂上がV字に削られた〈道遊の割戸〉の威容をはじめ、旧相川拘置支所や新穂大野の古寺など、ちょっと不思議で異次元ぽくて、不思議な浮遊感があるけど存在感はずしんと重い、そんな風景の中で物語は進行する。
 物語を貫いているのは、〈どこから来て、どこへ行くのか〉という根源的なクエスチョン。とことん台詞が少なくて、聞こえてくるのは木々の葉ずれの音や、風の音。スクリーンに吸い込まれ、イマジネーションをぐるぐると回転させながら、見ているこちらも作品の中を浮遊しているような感覚だ。しかも初めて見る風景なのに、なぜかこの場所をよく知っているような。夢で何度も来ているような。
「これが私にとっては2作目の長編映画なのですが、前作『ブルー・ウインド・ブローズ』は佐渡島で撮影したんです。で、撮影が全部終わった後、金山の近くを通りかかったときに〈無宿人の墓〉という看板を見つけた。気になって、携帯で調べたんです。するとその歴史がすごい! その瞬間からこの映画『わたくしどもは。』が始まったような気がします」
 佐渡島は昔から金鉱で知られたところ。その掘削はあまりにハードな作業だったため、江戸時代から無宿人たちが、労働の担い手として送り込まれていた。何かしらの理由で戸籍を奪われ、無宿人となった人たちは、この島で否応なく過酷な労働に追われ、多くは数年で亡くなってしまった、とか。
 そんな故事来歴が、佐渡の美しい自然に深い陰影を与えているのか。作品にはこの世とあの世の中間地点にいるような、静謐で深遠  で、そして少々酷薄な世界観が広がる。
「金山という場所にその人たちの魂というか、存在がいるような感じがして。直接その人たちの物語を描くということではなく、さまよう魂というか、その存在についての映画を撮ってみたい、と」
で、今週のYEOは、この映画監督であり、オリジナル脚本も書いた、富名哲也をクローズアップ。2013年に短編映画『終点、お化け煙突まえ。』で注目を集め、2018年に長編初監督作品『ブルー・ウインド・ブローズ』が世界各地の映画祭で高く評価され、長編2作目の『わたくしどもは。』でいよいよ本領を発揮することになった彼を、追ってみた。実はYEOに登場するのは、これが3回目。月曜日から金曜日まで連日更新しながら、注目の映画監督のリアル、語ってもらおう。

  • 出演 :富名哲也 とみな てつや

    北海道釧路出身。ロンドン・フィルム・スクールで映画を学ぶ。2013年、短編『終点、お化け煙突まえ。』が第18回釜山国際映画祭の短編コンペティションに選出される。2015年『ブルー・ウインド・ブローズ』の企画が釜山国際映画祭のASIAN CINEMA FUNDにて助成金を獲得。2018年長編初監督作品『ブルー・ウインド・ブローズ』は第68回ベルリン国際映画祭ジェネレーション・コンペティション部門とBerlinare Goes Kiezに選出された。ウクライナの映画祭で撮影賞、バングラデシュでは作品賞を受賞。長編企画『わたしくしどもは。』はベネチア国際映画祭が実施する新鋭監督を支援するプロジェクト、Biennale College Cinemaに選出された。同企画はTIFFCOM TOKYO-GAP FINANCING MARKET HongKong=Asia Financing Foramなどの企画マーケットにも選出。長編第二作『わたくしどもは。』は香港国際映画祭INDUSTRY傘下のHKIFF COLLECTIONとワールドセールス契約を結んだ。2023年10月、同作は第36回東京国際映画祭コンペティション部門にてワールドプレミアを迎えた。

    畠中美奈 はたなか みな

    鹿児島県出身。大学卒業後、(株)久米設計の設計室に勤務。その後プロレス団体UWFインターナショナルの広報・企画部長を務める。安藤忠雄設計の大手前アートセンターにて黒田アキ展をプロデュース。長野パラリンピック冬季競技大会開会式の制作チーフ。その後写真展の制作、俳優のマネジメントを経て、2013年から冨名哲也監督とTETSUYA to MINA film(テツヤトミナフィルム)を始めた。以来、富名哲也監督全作品、『終点、お化け煙突まえ。』(2013)『ブルー・ウインド・ブローズ』(2018)『わたくしどもは。』(2023)の企画・プロデュース・キャスティングを担当している。

    映画 『わたくしどもは。』

    名前も過去も覚えていない女(小松菜奈)が目を覚ますと、そこは見知らぬ島の、建物の中。住民たちと暮らし、清掃の職を得て働き始める。他の住民たちも記憶を持たぬまま、つかず離れずの距離感の中、穏やかな時が流れる。偶然知り合った男(松田龍平)に惹かれ語り合うようになるが、いつの間にか住民たちがひとりずつ姿を消していき・・・・。

    映画『わたくしどもは。』公式サイトhttps://watakushidomowa.com/
     

  •  

    取材/文:岡本麻佑

    フリーライター歴30余年。女性誌、一般誌、新聞などで活動。俳優・タレント・アイドル・ミュージシャン・アーティスト・文化人から政治家まで幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。単行本、新書なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/