伝えたいのは、感動だけではない。
「体を整えると、心も整います。悩んでいることがあっても、踊ったり、体を動かすと忘れられる。動いたり汗をかくと気分が変わって、さっきの悩みはどうでもいいことだった、と。
 運動って、《運を動かす》って書きますよね? 自分が動くことで、なにかしらその後の展開が変わっていく事が多々あります。何かに悩んでいるときはたいてい体を動かしていなくて、気が停滞しているんです」
 自身も、悩み多き時代があった。
「20代はわりといろいろなことに思い悩むことが多かったです。周りの友達にはいつも明るく元気でやる気に満ちあふれているように思われがちだけど、もちろんそんな時ばかりではなくて。でも常に高みを目指したいという思いは抱えているから、どうしたら這い上がれるんだろう?って。」
 そんな経験が、ダンスを教える場では、とても役にたつのだとか。今はコンテンポラリーダンスを教えるクラスを、週に2回ほど、担当している。
「私が担当している大人の基礎クラスでは、ふつうの会社員の男性とかも来てくれます。中には大人になって初めてダンスを始めたという人もいて。今、3年目くらいかな。最初は右も左もわからないような状態だった方も、今ではいつか舞台で作品を踊ってみたい!  と言ってくれたり。すごい変化です」
 踊ることで、人生が変わる?
「全身を使ってカラダを動かしたり、表現をすることで、その人自身の外見や内面は確実に変わると思っています。私のクラスでは、最初の30分はひたすら床に寝そべってゴロゴロと、脱力と呼吸を繰り返します。すると次第にカラダの中の無駄な力が抜けて、心もデトックスできるんです。そこから基礎の動きを練習して、最後は振付を踊ってという流れなのですが、だいたいみんな終わりには、痛かったところが治ったー! と言って、来た時よりも元気になって帰って行ってくれます。最初のうちは、床に手をついたり逆さまになるのも怖いみたいなところから始まるんですけど、今ではもう喜んで転がったり逆さまになったり、新しい技に挑戦したい! となったり。あ、それと、ゴルフや野球をやっている方は、スイングが劇的に変わったー! と言ってくれる人もいました(笑)」
 教えるだけでなく、教わることも。
「基本的に体をキープするために、週2でマンツーマンのピラティスを受けたり、ジムではインストラクラターの人と骨と筋肉について語り合ったり(笑)。あとは、バレエのレッスンも定期的に受けています。たとえ世界のトップに君臨しているバレエダンサーであっても、朝のバレエのレッスンを受けるのが、ダンサーとして当たり前のことなんです。誰かに体を見てもらう、誰かに動きをチェックしてもらうということが、自分の肉体のコンディションを保つためには必須なんです」
 一流であればあるほど、自分を過信しない。他人に自らを委ね、客観的な視線を信じて自分をキープする努力を怠らない。これって、どの世界のトップ(と思い込んでいる人たち)にもぜひぜひ、聞かせたい話だ。
「オリンピックのアスリートと同じで。一ミリ単位で体のズレを調整して、体の軸をキープします。ひとりよがりでは、一定以上の水準は保てないんです。20代の頃は、ただ勢いだけで踊っている時期もありましたが、30代で体の正しい使い方や知識を得て、もう一度、一から自分を作り直していけているような気がします」
 この先もずっと、踊り続ける?
「いつまでも踊っていたい、とは実は思っていなくて。最大限、体が動くうちは踊りたい。たとえば、音楽のオーケストラですごく盛り上がるクライマックスの場面! みたいなところで、音の盛り上がりに匹敵するくらいカラダで奏でられるのか、音の感動と体の表現が一致するのか、というところを重視していて。それができなくなったら、やめるのかなぁと思います。…とか言いながらずっと、あと3年は大丈夫! あと3年はいける!!
って。今でもそう思いながら、その期限が延び続けています(笑)」