メジャーな舞台でダンサーとして活躍するその一方で、コンテンポラリーダンスの一人
のアーティストとして、磨きをかけてきた。2005年文化庁新進芸術家国内研修員となり、09年には自身の振付によるソロ『snow wall―狭められてゆく色彩』で新人賞を受賞。
「コンクールではけっこうチャレンジングな振付もしてきました。4分作品の最初の30秒くらい、ただ舞台の際に立ってゆっくり腕を上げていくだけ、みたいな(笑)。多く語らなくても、静の動きで舞台空間にちゃんと存在したり、体からエネルギーを発することができたら舞台の空間が埋まる。舞台に出た瞬間に、何を発するか。そして去った後にはどんな余韻が続くか。上手な人は、見えないけれど絶対に、そこに何かがあるんです」
 そんなふうに思えたのは、20歳くらいの頃に見た、あるダンサーのステージから。
「ダンス界のカリスマみたいな方、新上裕也さんの舞台を見たときに、ものすごい衝撃を受けました。登場するだけで場が変わり、シャープな動きと表現力、創り出す世界観に釘付けになりました。その感動が今でも忘れられずに、今も踊り続けている気がします。たとえダンスにモチベーションがなくなる時期があっても、そのときの感動を思い出して、もう一度自分に喝を入れるんです。一瞬の感動のおかげで、ひとりの人間が10年、20年、モチベーションを維持できるって、すごいことじゃないですか。だから私も、そういう瞬間を作りたい。見ている方にそういう感動を与えられるダンスを作りたい」
 そういうパフォーマンスには、特別な何かが、あるようで。
「舞台に出ていて、一番ゾーンに入れたと思うのは、21歳くらいのときでした。舞台に立ったとき、なんて言えばいいのか、’つぶつぶ’が見えてくるんです(笑)。舞台上では照明のライトで舞い上がっているホコリが見えやすくなったりするのですが、それとは違う。空間が、粒子レベルで繊細に見えてくる。時間も、いつもよりゆっくりと過ぎていくような感覚です。宇宙の粒子が見えて、その粒子に触ったり、粒子の間をすり抜けたり、自分の体が粒子をすり抜けていくような感覚です」
 それこそが、池田美佳が表現したいもの。
「じわじわと、繊細な時間の中で上がっていくボルテージ。静と動があって、ずっと抑圧され続けていたものが、ふいに何かのきっかけでバーンと爆発して、最後には昇華されていく。ひとつの壮大な映画を観ているような…」
 そんな瞬間を求めて、今も、これからも、踊り続ける。