韓国でデビューしたり、アメリカで大物ミュージシャンとコラボしたり。行く先々で巡り会ったチャンスをひとつひとつ育ててきた神野美伽。数年前にも、思いがけない出逢いがあった。
「大阪で1ヶ月劇場公演をしているときに、楽屋を訪ねてきた方がいるんです。演劇のプロデューサーさんが、ちょっとお話がある、と。いきなり、『笠置シヅ子やりませんか』って。私の最初の答は『はぁ?』でした。なんで今笠置シヅ子やの? 私は歌は歌っても、踊ることもできないし。でもその人が、『神野さんしかいない!』っておっしゃるから、とりあえずホテルに戻って〈笠置シヅ子〉を検索しました。そしてすぐに『すばらしい!』って思ったんですね。そこから実現するまで1年、いや2年かかりました」
 23年10月から始まった朝ドラ『ブギウギ』で急速に話題になった、笠置シヅ子。『すばらしい!』から始まって、神野美伽は笠置シヅ子と彼女が歌った楽曲に、のめり込んだ。
 2019年11月、大阪COOL JAPAN PARKで音楽劇『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE~ハイヒールとつけまつげ~』でブギの女王・笠置シヅ子を演じ、服部良一メロディー全19曲を全力で歌いあげた。とはいえ、大阪公演を無事に完遂した直後コロナ禍に突入し、東京での公演は叶わなかった。そこで、
「アルバムを残したい!って、すごく思ったんです。でも、楽曲の権利関係で、思いきりNGだったんですよ」
 そこで諦めないのが、神野美伽。
「ない知恵絞って、なんとかならないかと打診したんですけど、ダメでした。でもタイミングよく、朝ドラが話題になりましたよね」
 笠置シヅ子を歌わせるなら神野美伽、とばかりに、あちらこちらから『歌ってほしい』というオファーが殺到した。頼まれるまま、歌っていたら。
「ふっとドアが開いたんです。許可が下りて、アルバムを出せることになりました。結局は朝ドラのおかげ、ですかね(笑)。日本のジャズのてっぺんにいるミュージシャンたちが集まってくれて作ったアルバムですから、自信があります。何度断られても、諦めたらダメですね。自分がやりたいことに関しては私、しつこいです。めっちゃ疲れますけど(笑)」
 6月12日にはそのときのミュージシャンが集まって、一夜限りのアルバム発売記念ライブが行われる。強烈な歌唱力とキャラクターで昭和の日本を元気にした笠置シヅ子。そのナンバーを歌いあげる神野美伽も、私たちをきっと元気にしてくれるはずだ。