今週のYEO、ヒロインは神野美伽さん。昨年デビュー40周年を迎えたベテラン演歌歌手だ。このYEOにはジャンルを問わずいろんな方が登場するけど、その中でも、かなりレアな存在。その神野さんがどうしてYEOに登場することになったか、というと。
「今だな、と思ったんです。私、ステージの上ではわーっと歌うので、そんな風に見えないかもしれませんけど、もともとすっごく内向的な人間なんですよ。でも、瞬発力はある。そして好きな音楽のことに関しては、ものすごい積極的になれるんです。で、今この場だったら、自分のこと、良いことも悪いことも話せるような気がして」
 なるほど、おもしろい話がいっぱい、聞けそう!
「つい最近、大阪で、大御所の舟木一夫さんと一緒の舞台に立たせていただく機会がありまして、そのとき舟木さんが『キャリアの途中から、ナンバーワンよりオンリーワンになりたいと思うようになった』とおっしゃった。それを聞いて私も、本当にそうだな、と。
 もちろんプロの歌手ですから、評価されたい、一番になりたい、たくさん売れたい。でもそれよりも、何をどこで、どんなふうに歌っているかが、今の私にとって一番大事なこと。そう思うようになりました。
世の中に歌のうまい人は、たくさんいます。私よりうまい人なんて、星の数ほどね。だけど私には、私にしかないものが、あるんです。そう言えるようになるまで、40年かかった。長かったー! 時間かかりすぎ、ですね(笑)。
 今日こうやってお話して、その記事を誰かが読んでくれて、私に興味をもってくれたら、すごくうれしい。明日またどこかで歌って、それを聞いて誰かが何かを感じてくれたら、もっとうれしい。今日を楽しく機嫌良く、良い歌を歌うのが大事。何よりもまず今日1日を、大切にしていきたいです」
 そんな彼女にまず聞きたかったのは、〈演歌歌手〉と呼ばれることの、光と影。YouTubeで【神野美伽】を検索すると、さまざまな歌を見事に歌いこなしているのがわかる。歌、超ウマイ。ずいぶん以前から日本を飛び出し、韓国やアメリカでも活動している。とっくの昔に〈演歌歌手〉というカテゴリーから、はみ出しまくっているような。
「若い頃はそこに、すごい抵抗がありました。なんで神野美伽っていう名前の前に〈演歌歌手〉ってわざわざつけるんだろう? ただの〈歌手〉でいいのにって。まだ駆けだしの頃、記者さんに、『〈演歌歌手〉って書かないで下さい』って直談判したこともあります、生意気ですね(笑)。でもそれが付くだけで、損しているような気がして。ネガティブなイメージを、自分で持っていたんですね」
 でもそれが、いつのまにか大逆転。
「アメリカに行って歌うようになって、気がついたんです。演歌は私の、大事な個性のひとつなんだって。ニューヨークのジャズクラブで歌わせてもらって、それを聴いた人がすっごく面白がってくれた。彼女は何者? 演歌歌手? 演歌ってなに?って、興味を持ってくれた。ジャズとかいろいろなジャンルの方たちからオファーをいただけるようになったのは、〈演歌〉という個性を私が持っていたから、なんです」
 ニューヨークでは自ら〈ジャパニーズ・演歌・シンガー〉と名乗ってステージに立つこともあるとか。さらに数年前、朝ドラが取り上げるよりずっと前に、笠置シヅ子の人生を音楽劇で演じている。笠置シヅ子のヒット曲を歌いまくり、高評価を得た。笠置シヅ子と作曲家・服部良一氏が生み出した日本のジャズを、この機会にひとつの形として残そうと、笠置シヅ子のカバー11曲を収録したCDも発売している。6月12日にはそのアルバムを記念したライブも予定している。〈演歌〉という個性が〈演歌〉以外の曲を歌うとき、ひときわ輝くのだ。
 今週は月曜日から金曜日まで連日更新。神野美伽がどんなふうに40年を駆け抜けてきたか。韓国でのデビュー、ニューヨークのジャズクラブ、つい最近公になった結婚のことなどなど、いろんな角度から見た神野美伽を、お楽しみに!

  • 出演 :神野美伽  しんの みか

    1965年生まれ、大阪府出身。10歳で出演した歌番組でプロダクションスタッフの目にとまりスカウトされる。84年、高校卒業を待って演歌歌手としてデビュー。87年『NHK紅白歌合戦』初出場。99年日本人初の韓国デビュー。アメリカ、ニューヨークでもライブを継続的に行い、国内外のロックフェスに出場。他ジャンルのアーティストとのコラボレーションも多く、活動の幅を広げている。

     

    『天の意のまま』2024年3月6日発売
    作詩:荒木とよひさ 作曲:弦哲也 編曲:猪俣義周
    40周年記念曲第2弾。

    『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』2024年4月17日Release
    神野美伽with ALL STAR JAZZ BAND
    2019年11月大阪COOL JAPAN PARKで公演した音楽劇『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE~ハイヒールとつけまつげ~』ではブギの女王・笠置シヅ子を神野美伽が演じ、服部良一メロディー全19曲を歌った。高評価を得たその舞台そのままに、珠玉の名曲11曲を収録。

    6月12日丸の内CottonClubにてアルバムレコ発ライブ決定!
    レコーディングに参加したミュージシャンが集合し一夜限りの特別プログラム。
    神野美伽with All Star Jazz Band
    1st Stage 16:30/2nd Stage 19:30 (開場は各公演の1時間前)

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    取材/文:岡本麻佑

    フリーライター歴30余年。女性誌、一般誌、新聞などで活動。俳優・タレント・アイドル・ミュージシャン・アーティスト・文化人から政治家まで幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。単行本、新書なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/