今週のYEOゲストは、このおふたり、父と息子だ。職業は同じ、邦楽の音楽家。父親の呂悦は小鼓や締太鼓など打楽器を演奏し、不世出の天才打楽器奏者と呼ばれている。息子の貴生は篠笛、能管など笛を専門とし、彼もまたその天性の才能を生かして幅広く活躍。4年前にも1度、YEOに登場(2018年12月10日~12月14日)している。見ようによっては今日のこの写真、邦楽界の父子鷹、なんてタイトルがついても不思議じゃない。
 ふたりがふだん、主に活躍するのは、歌舞伎の舞台や日本舞踊公演など。囃子方(はやしかた)として、舞台の屋台骨をしっかり支えている。つまり、ふたりが生息しているのは、日本の古典芸能の世界。
 取材するこちらは、もともと歌舞伎好きのライター。その時々で注目の歌舞伎俳優を片っ端からインタビューしてきたけれど、しょせんは素人。黒御簾の中のことは、よく知らない。黒御簾というのはあの、舞台の上、向かって左脇にあって、中から三味線や太鼓や笛の音が聞こえてくる、ブラックボックス。ディープでミステリアスでコンサバな世界だろうと、勝手に思い込んでいた。
 ちょっとドキドキしながら呂悦氏に、「伝統芸能のことはあまり詳しくないのですが・・・・」と、言い訳しながらインタビューをスタート。すると
呂悦 いやいや、僕も伝統とか古典芸能とか言われても、よくわからんのです(笑)。よろしゅう、お願いします。

 ほっ! なんか急にハードルが下がって、ひと安心。すると側にいる貴生さんが、
貴生 もうね、この方、オンとオフで印象ががらりと違うんです。舞台で太鼓を打つ姿は威厳があって、怖くて近寄れないってみんな言います。僕の家内も、最初そうでした。はじめに父の舞台を観たものだから、すごい緊張して、『どうしよう?』って言っていたんですけど、その後、打ちあげの席に行って、父が浴衣姿でステテコ丸出しで酒を飲んでいる姿を見たら、『えー!』って(笑)。どっちが本当なんだか、どっちも本当なんですけど。

 では、と腰を据えていろいろ聞いてみたら、70年代から80年代、そして今に至るまで、邦楽のミュージシャンとして活躍してきた呂悦氏の話が、おもしろい! 今この時代の中で邦楽をガンガン突き進めようとする貴生氏のマインドの、奥が深い!
というわけで今週のYEOは、邦楽界のレジェンド藤舍呂悦と現役スーパープレイヤー&プロデューサーの藤舍貴生の物語。金曜日まで連日更新する父と息子の話を、お楽しみに!

  • 出演 :藤舍呂悦 とうしゃ ろえつ

    1940年4月18日、横浜生まれ。四世藤舍呂船、初代呂秀に師事。主に邦楽囃子方として歌舞伎、舞踊舞台などで活躍中。その一方で70年代より武満徹、諸井誠らの現代音楽作品に参加。N響、大阪フィル、京響などとクラシック音楽で共演。多くの異種アーティストと競演し、前衛的な活動にも積極的に参加してきた。さまざまな海外公演にも参加している。佐渡の鼓童、前身である鬼太鼓座創立時より指導にあたる。

    藤舍貴生 とうしゃ きしょう

    1970年12月13日年、京都市生まれ。東京藝術大学卒業。藤舍呂悦を父にもつ歌舞伎音楽、邦楽の横笛(能管、篠笛)の演奏家。古典音楽のみならず林英哲、DJ KENTARO、村治佳織らとの共演も果たす。EXILE USA、黒田征太郎、武田双雲など異種アーティストとのコラボも多い。演奏者としての活動にとどまらず作曲家としてCM音楽、東京コレクションでの音楽も担当。またプロデューサーとして『未来創伝』などの公演を企画、CD『幸魂奇魂』は第54回日本レコード大賞企画賞を受賞している。

    〈公演情報〉

    『吹打 Suida』
    邦楽囃子における打楽器の第一人者・藤舍呂悦が82歳の今、限界に臨む。それを支えるのは横笛奏者にして作曲・プロデューサーとしても八面六臂の活躍を続ける藤舍貴生。初の父子リサイタルで、大曲『鏡獅子』『船弁慶』、箏曲『乱(みだれ)』を父が演奏し、息子の貴生は自らが構成した『言響』を、若村麻由美を迎えて披露する。邦楽界の重鎮ふたりが黒御簾から躍り出て、真の力を発揮する。
    2022年12月20日(火)21日(水)18時30分開演(17時50分開場)紀尾井小ホール
    入場料 7000円(全席指定・税込み)問合せCATチケットBOX/℡03-5485-5999(平日10:00~18:00) 吹打事務局/ suida122021@gmail.com

    サイトhttps://www.stagegate.jp/stagegate/performance/2022/suida/index.html

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    取材/文:岡本麻佑

    フリーライター歴30余年。女性誌、一般誌、新聞などで活動。俳優・タレント・アイドル・ミュージシャン・アーティスト・文化人から政治家まで幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。単行本、新書なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/