長編映画初主演だというのに、上原実矩は『ミューズは溺れない』の宣伝活動に苦労しているという。実はそれには、深―い事情があるらしく。
「けっこう燃え尽きちゃったんですよ。なんかいろいろ背負いこみ過ぎちゃって。撮影自体は2年前で、それからコロナで撮影が中断したり、いろいろあって、完成しないんじゃないかって不安なまま2年が過ぎて、完成したら、いきなり作品賞いただいて、個人賞もいただいて。なんか、やっと表に出て認めていただけるようになって、自分の中でもちょっと変化が、あって。(賞を)狙っていた気持ちが報われて、自分が頑張っていたことが、他人に認められることによってすごい実感として持てました」
 そう言いながら、上原実矩はうつむいたまま。
「撮影が終わったときは、若干自信を喪失していたので、映画に対して、その、なんて言ったらいいんだろう・・・・」
 しばらく、次の言葉を待つことにした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 そういえば以前、こんなことがあった。やはり20代半ばの、注目の若手女優にインタビューしたときのこと。質問しても、なかなか言葉が出てこない。一生懸命答えようとしてくれているのはわかるけど、何も言ってくれないと、原稿が書けない、と、当時の私は焦った。その20年後、実力派女優に成長した彼女にインタビューしたら、素敵な言葉が次々と! 思わず、『以前とは変わりましたね』と言ったら、『そうね、あの頃は自信もなかったし、自分の言葉も持ててなかったかもしれないわ』。そう言って、艶然と微笑んでくれたのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 待っている間、こんなことも思い出していた。ハリウッド俳優にインタビューしたときのこと。なんてことない、ありきたりの質問をしたのだけれど。『うん、それは素晴らしい質問だね! よく考えてみるよ、そうだね』と言いながら、結局、質問とは関係のない話をしてくれて、大いに盛り上がったのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 5分ほど沈黙が続いたあと、こんな答が返ってきた。
「何か言うにしても、それは私の目線でしかないので。やっぱり作品を作る上ではいろいろな方が現場で働いてくださっていて、そこではぶつかったり、雰囲気が悪くなることもあって、それは私の力が足りないからじゃないかって思って」
 どうやらいろいろ、あったらしい。沈黙の後は、涙がぼろぼろ。
「朝起きて、初めて、現場に行きたくないって思ったこともあって。現場でも、自分はちゃんと演じているんだろうか?って、そういう心配をずっとしていて。だから、いろんな感情にさせてもらった作品だなって」
 涙はそこから10分ほど、続いた。