フワフワしてた、と自分では言いながら、上原実矩はそれから今に至るまで、いろいろな作品に顔を出している。
『来る』(2018年)『私がモテてどうすんだ』(2020年)『青葉家のテーブル』(2021年)と出演が続き、さらに『余命10年』(2022年)『流浪の月』(2022年)にも参加した。そんな中に、短編映画初主演となった『この街と私』(2022年)があり、長編映画初主演、そして9月末に公開となる『ミューズは溺れない』があった。コロナ禍の影響で撮影時期と公開時期が大幅に入り乱れているけれど、頑張っているのは間違いない。
 で、その『ミューズは溺れない』、主演のきっかけは、宣材写真だったという。
「その写真を見て、監督が気になる、と言ってオーディションに来るよう、声をかけてくださったんです。その写真を撮ってくれたのが、萩庭さんなんですよ(笑)」
 このオーディションのときは、スイッチが入っていたらしい。
「なんかすごい、この作品、勝負できるな、って。賞レースだったり、いろんなものに対して。やっぱり女優として見てもらえる場を得るには、やっぱり賞レースとかが一番近いと思って、意気込んで臨みました」
 応募総数300人余の中、見事ヒロインをゲット。演じたのは、どんなヒロインだったかというと。
「わりとフツウにいる女の子、ではあるんですけど、父子家庭で育って、そこに新しいお母さんが来て、今まで住んでいた家が区画整理でなくなってしまうから移動しなきゃいけない。自分の想いとは裏腹に、周りがどんどん変化してしまう。美術部に入っているけど、本当に自分が絵をやりたいのか、わかっていない。そこにすごい絵の才能がある子が現れて・・・・。ちょっとした葛藤が全部凝縮されて、迷って、自分を探しながら漂っているような。(それを演じながら自分も)そこを楽しめばいいのに、当時は確固たるものが欲しいというか、わかりやすいものが欲しいと思ってしまっていた時期だったので、わからないことに対して今度は自分をいちいち責めてしまう。抱え込んでしまって、それが良くも悪くも役に反映したのかな、と」
 演じた役と自分自身が、リンクしていた?
「そうですね、リンクしちゃっていたからこそ、ちょっと抜け出すのに時間がかかる、というか。脚本をいただいた時点では、その女の子の心情がすごくわかると思ったんですけど、でも撮影にいざ入ったら、〝わかる〟から〝わからない〟に突き落とされちゃって。もうなんか、迷宮に自分から入り込んでいっちゃったんです」