1時間余のインタビュー、終わりかけの頃、こんな話をしてくれた。
「20代でこれからっていうときに、芸名を決めようと思って、ある先生に相談したんです。字画とかいろいろ調べてくれて、すると『榎木孝明っていう名前はすごく良いから、あえて芸名はつけずに、本名でやったほうがいい』って言うんです。そして『あなたは遅咲きだから、還暦すぎてから、本当にあなたの好きな人生が始まるよ』って。だから本領発揮できるのは、これから、らしいです(笑)」
 今までが助走期間にすぎないのだとしたら、なんとも華やかな助走期間だけれど。どうやら彼の中には、フツフツとたぎるエネルギー源があるらしい。
「若い頃、自分の中の血がたぎる思いをすると、それを収めるのが大変でした。だから、昔の武士の時代だったらたぶん、率先して闘いの中に突っ込んで行っただろうし、学生運動がピークの時代に生まれ合わせていたら、たぶん何かやっていたかもしれない。たまたま、自分が生まれた時代には発散させる場がなかったので、結果的にひとり旅をしてたんじゃないかな。1ヶ月くらい旅して帰ってくると、あ、そういえば血が鎮まっているなと感じましたから(笑)」
 今もまだ、ときどき、彼の中の血がたぎることもあるらしい。けど、
「当面は、連続ドラマとか舞台の仕事があるので、ちゃんと働きます。9月の舞台『桜文』がとても楽しみなんだけど、男の色気が必要とされる役なんですよ。若い頃から〝お前は色気がない〟って言われ続けて来たから、頑張らないと(笑)。明治の時代に生きた男の役なのでね、なにか、舞台に出てきただけでその男の背景がお客様に伝わるような、明治と言う時代の空気や街並みが浮かんでくるような、そんな芝居をすることが目標ですね」
 充実した人生、いろいろな話が面白すぎて、あっという間に終わってしまったインタビュー。そういえば、一番聞きたかった武術の話を、聞き忘れてしまった。不食の話や宇宙大好きな話も聞きたいし。榎木さん、またYEOに出て下さいね!

  • 出演 :榎木孝明 えのき たかあき

    鹿児島県出身。武蔵野美術大学デザイン科に学んだ後、劇団四季入団。『オンディーヌ』(1981年)で初主演。83年退団。翌84年NHK朝の連続テレビ小説『ロマンス』の主演でテレビデビュー。映画『天と地と』ドラマ『浅見光彦シリーズ』など、時代劇から現代劇まで幅広く活躍。水彩画を描き続ける画家としても活動している。

  • 〈出演情報〉
    ●映画『峠 最後のサムライ』
    6月17日(金)より公開。原作・司馬遼太郎 小泉尭史監督作品 出演/役所広司・仲代達矢・松たか子ほか

    ●TVドラマ『警視庁強行班係・樋口顕Season2』(テレビ東京)7月15日(金)20時~
    警視庁刑事部捜査一課の管理官・天童隆一役で出演

    ●舞台『桜文』
    明治の頃、吉原随一の花魁が華やかな道中の最中、かつて恋仲だった青年の面影を見かけて卒倒する。一体なにが起こったのか。そこから起こる悲劇は・・・・。出演は久保史緒里(乃木坂46)、ゆうたろう、松本紀代、石倉三郎ほか。東京 パルコ劇場22年9月5日(月)~9月25日(日) その後大阪、名古屋、長野に巡回する。

    ●講演 大人の寺子屋『次世代継承塾 第4回 時代劇は生き残れるか!?』
    7月1日(金)麟祥院本堂(東京都文京区)18:30~20:00 村上信夫(元NHKエグゼクティブアナウンサー)との対談。申し込み 電話03-3811-7648(麟祥院)
    E-mail:otonoatera0401@gmail.com(村上)

    ●展覧会 板谷波山生誕150年記念『榎木孝明水彩画展~ロケ地の情景~』
    7月9日(土)~9月25日(日)しもだて美術館(茨城県筑西市)
    『榎木孝明ミニトーク&サイン会』7月31日(日)13時30分~ 会場:しもだて美術館ロビー

    ●美術館
    『榎木孝明美術館』九州芸術の社(大分県球磨郡九重町大字田野美術館通り
    『アートスペースCuore』(東京都渋谷区上原1-35-7KUDOビル)

    http://www.officetaka.co.jp/

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    取材/文:岡本麻佑

    フリーライター歴30余年。女性誌、一般誌、新聞などで活動。俳優・タレント・アイドル・ミュージシャン・アーティスト・文化人から政治家まで幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。単行本、新書なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/