5 二十一歳のがる
21歳の猫・がる
- Magazine ID: 4069
- Posted: 2022.02.25
そんながるが、ちょっとシリアスな病気になった。この原稿を書いている今、まだはっきりと確定していないのだけど、悪性のリンパ腫かもしれない、と言われている。がる自身はそんなこと、気にしてないので、相変わらずだ。
2年ほど前から、いやその少し前から、動き方がオバアサンぽくなってきた。お尻の肉も落ちてきた。アゴの下にお肉が垂れて、白髪も増えて、猫も老けるんだなぁって、びっくりした。前みたいにジャンプしてテーブルの上に乗ったり椅子に飛び乗ったりすることはなくなり、定位置の自分のベッドでまったりするとき以外は、部屋の中をあちこち歩き回って散歩する程度。歩き方もとぼとぼとぼとぼ。足が動かなくて、中途半端なところで呆然と座り込んでいることもある。推定年齢100歳だから、無理もない。
そして半年くらい前から、部屋の壁伝いを歩いては、家具や壁に頭からゴツンとぶつかるようになった。医者によると、血圧が高くなって、目が見えにくくなっているらしい。毎朝飲む薬に、血圧の薬が加わった。それでもちゃんと自分でトイレに行くし、エサも食べている。
今年に入ってから食欲が落ちて体重も減って、前足の関節部分になにやら不審な大きいかさぶたができて、ちょっと様子がおかしいので医者に連れて行ったら、悪性リンパ腫という宣告を受けたのだ。
困った。けど、しょうがない、という思いもある。いつかは死んでしまうのだろうと覚悟していた。でも、本当に私の中に覚悟ができているのかどうか、自信がない。
なるべく今まで通り、ふつうに暮らして欲しいと思う。苦しいとか痛いとかイヤな思いはさせたくないので、検査や治療は様子を見ながら、最小限に留めるつもりだ。
この先、どのくらい生きてくれるのだろう? そう思っても、涙は出てこない。心の中に鋼鉄のフタができていて、感情をせき止めているのがわかる。ちゃんと見て、できるだけケアして、見守っていなければ、という責任のようなものが、かろうじて私を支えている。
「たまたま拾った猫が、偶然、世界一かわいい猫だったの」
というのが私の決まり文句だったのだけど、わかっている。がるは日本中どこにでもいる、雑種の猫だ。ふつうの猫だ。でも、私の猫だ。
原稿を書いていると、椅子の足元にやってくる。もう、自分から飛び上がることができないので、そおっと持ち上げて私の膝(正確には太ももの上)に乗せる。しばらくすると前足を私の腕に乗せて合図するので、そおっと降ろす。そんなことを何度もくり返しながら、毎晩、時が過ぎていく。
がるは今も、私の膝の上にいる。
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出演 :がる
2000年8月末生まれ。東京都世田谷区出身。9月3日に段ボールの中から救出され、以来フリーライターの岡本麻佑と同居している。
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取材/文:岡本麻佑
フリーライター歴30余年。女性誌、一般誌、新聞などで活動。俳優・タレント・アイドル・ミュージシャン・アーティスト・文化人から政治家まで幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。単行本、新書なども執筆。
撮影:萩庭桂太
1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
http://keitahaginiwa.com/