名前は、がる。YEOの原稿を書いているライター、つまり私の飼い猫だ。今年1月10日YEOに登場したワンコのさくらに続き、人間以外の主人公第2弾。昨年8月に21歳となったこの猫・がるが、今週のヒロインだ。
 世田谷の小田急線の線路沿い、住宅街の路上に置かれた段ボールの中で1匹だけ、うずくまっていた。その日9月3日の気温は灼熱の34度。見つけたのは午後2時頃だけど、きっと朝からそこに捨てられていたのだろう。箱は大きかったので、何匹かのきょうだいと一緒に捨てられ、その最後の一匹だったのかもしれない。ぐったりして、ぴくりとも動かない。
 あわてて動物病院へ。皮下注射で水分を補給して、獣医さんの言うことには。
「たぶん、これで、生きられると思う。生後1~2週間かな。しばらくの間、エアコンの風に当てて体を冷やしてください。それで、意識が戻って鳴き始めたら、猫専用のミルクを与えてください。できますか?」
 できるかどうか、そんなの、わかんない。子猫を育てるなんて、初めてだもの。とりあえずペット用品の店に走り、猫用のミルクを買った。幸い、意識が戻ったのか小さな声で鳴き始めたので、粉末ミルクをお湯で溶いて、哺乳瓶で飲ませてみる。
 すると、飲んだ! ごくごくごく。
 その瞬間から今に至るまで、21年あまり、がるは私の相棒だ。
 猫業界では、つまりその、猫を飼う人たちがSNSとかネットで情報交換している世界では、猫にとっての自分の存在を、猫の下僕とか餌やりオバサンとかママとかダーリンとか、いろいろな言葉を使うけど、私にとってがるは、相棒。対等で、言うべき事は言い合い、補完しあう間柄。の、つもりでいる。
 そもそも、猫を飼うつもりはなかった。いや、あったけど、許されないと思っていた。小さい頃、思いつきで犬を飼いたいと親にせがみ、雑種の白い犬を飼ったことがある。でも、犬を飼うということがどういうことなのか、どういう責任があって義務があるのか、ガキの私には全然わからなかった。で、散歩にもろくに連れて行かず、面倒も見ず、気の向くときだけかわいがり、早死にさせてしまった。その記憶があるから、自分は生き物を飼う権利はない、と、諦めていた。花は好きでも、根っこの付いた生きている花は敬遠していたくらい、そのトラウマは強かった。
 でも猫は大好きだったので、〈ある日突然捨てネコに遭遇して否応なく飼う羽目になる〉、という状況を夢想していた。飼うならサバトラがいいな、と思っていた。目のしたに白いラインが入っているとかわいいな、と思っていた。するとそれが、すべて現実になったのだ。
 住んでいたのは賃貸マンションでペット禁止だったけど、そんなのどうでもいい。この子は、私の猫だ。
そんなこんなで猫を飼い始めた私は、以来21年、想像もしなかった日々を送ることになる。今週のYEOは、そんな話をあれこれ、金曜日まで連日更新。猫好きの人、動物好きの人、ペット好きの人、そうでない人も、読んでみてください。

  • 出演 :がる

    2000年8月末生まれ。東京都世田谷区出身。9月3日に段ボールの中から救出され、以来フリーライターの岡本麻佑と同居している。

  • YEOからお知らせ:YEO専用アプリ

    このYEOサイトにダイレクトにアクセスするためのスマホ・タブレット用の無料アプリです。
    とてもサクサク作動して、今まで以上に見やすくなります。ダウンロードしてください。
    iOS版 iOS

    Android版 Android

  •  

    取材/文:岡本麻佑

    フリーライター歴30余年。女性誌、一般誌、新聞などで活動。俳優・タレント・アイドル・ミュージシャン・アーティスト・文化人から政治家まで幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。単行本、新書なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/