3 猫がインタビューしたら
21歳の猫・がる
- Magazine ID: 4067
- Posted: 2022.02.23
猫は弱い生き物だ。鋭い爪や牙もあるけど、ちっちゃいし、人間のほうが優位にある。
なのに、面と向かうと、妙な迫力がある。真面目くさった顔をして、私の知らないことを知っているような気配がある。ちょっとした仕草で欲しいものを私にわからせてしまう、魔力もある。弱いけど十分に、私という飼い主を振り回している。
弱いからって、弱いわけじゃない。
それも、がるを飼い始めて気が付いたことのひとつだ。
私の仕事はフリーライターで、芸能人とか文化人とか有名人をインタビューして、その内容を原稿にまとめるのが主な仕事だ。その日はちょっと疲れ気味で体調が悪く、しかも雨が降っていて寒かった。そんな日に限って、インタビューする相手は、大物アーティスト。失敗したくない、けど、気が重い。
一流ホテルのスイートルーム、ソファに向かい合って、インタビューが始まった。いつもならシャキシャキと質問するのが私のやり方なのに、案の定、声に力が出ない。もそもそと質問して、テンポが悪い。困ったな、と思っていたら、なんだか、予想外に話が盛り上がってきた。
相手の話に相づちを打っているだけなのに、次から次へと会話が弾む。おずおずと繰り出す質問に、ちゃんと答えてくれるだけでなく、話を広げてくれる。1時間弱のインタビューは、予想していたよりもはるかに、実り多いものになった。
たまたま、その大物アーティストが良い人だったのかもしれない。偶然、機嫌が良かったのかもしれない。でも、私には思い当たる点があった。
インタビューのとき、ほとんどの場合、相手とは初対面だ。よく知らない同士で、話を進めることになる。そんなときインタビュアーが、イケイケのバリバリ、元気いっぱい調子に乗って話し始めたら、取材を受ける側は、やれやれ、と思うのかもしれない。ちょっと疲れて、ちょっと弱っているほうが、ふつうに話せるのかもしれない。ちょっとオバカで、ちょっと物知らずのほうが、教えてやろうという気に、なるのかもしれない。生意気に持論を展開するより、うんうんと感心しながら聞き入る人間のほうが、話しやすいのかもしれない。
そんなことを思って以来、私は、全開バリバリでインタビューに臨むのを辞めた。無理するのを辞めた。格好つけて背伸びしたり知ったかぶりしたりするのを辞めた。知らないことは知らないと言い、教えを乞うことにした。自分の弱さを、隠すのを辞めた。するとなんだか、インタビューが楽しくなってきた。
ときに、弱さは、武器になる。ま、だからって弱いふりをするのは、それはそれでカッコ悪いことだから、加減が難しいのだけど。人間は、猫にはなれない。