〝有名なピアニスト〟というそれだけで、エリート？　金持ち？　住んでる世界が違うよね？　なんていろいろ妄想してしまうけど、この人はそんなイメージを軽々と裏切ってくれた。なんかすごく、ふつう、良い意味で。
「エリートなんかじゃないです。全然違いますよ」
　でもプロフィールには、国立音楽大学の大学院を首席で出た、と。
「それ、間違いではないんですけどね。限りなく灰色に近いプロフィールです（笑）。ふつう、首席で出る人は最初からエリートで、中学・高校・大学とずーっと成績優秀な人が多いんですけど、僕は真逆で。中学入った頃は劣等生みたいなもんだったし、高校から大学行くときに１年浪人してるし、大学から大学院に行く時も１年浪人してるんです、いろいろと事情があって。で、最後の最後に、運良く首席になれた、という（笑）」
　学校を出てからも、ずーっと第一線で活躍してきた。クラシックの枠にとらわれず、ジャズからポップス、童謡まで自由自在。
「子どもの頃、最初に好きになったアーティストは、ピンキーとキラーズです。最初に買ったレコードは南沙織さん。作曲家では筒見京平さんの大ファンでした。あとはやはり弾き語りのアーティストが好きで、エルトン・ジョンとかギルバート・オサリバン、日本でいったら、やっぱりユーミン、松任谷由実さんです。ファンクラブにも入っています。
　でもね、クラシック以外の曲を好きなのはなんで？　とか、どうしてジャンルを問わない演奏をするんですか？　って聞かれても、困りますよね。僕は最初から、全部の音楽が好きだから。ときには、クラシックの方からは、なんでポピュラーやるの？　って言われるし、ポピュラーの人からは、どうせクラシックでしょ？　って。どっちからも、仲間はずれというか、なんか違うって思われている（笑）」
2020年にＣＤデビュー30周年を迎えたけれど、コロナ禍で記念コンサートなどなどがほとんどすべてキャンセルに。仕切り直して今年2022年、改めて本格的な活動再開をめざしている。
　ピアノだけでなく、ときには自作の歌を歌うこともあり。
「歌うの、好きなんです。まあ、お金をいただいて聴かせるような歌じゃないので、申し訳ないから復興支援のチャリティライブで歌うところからスタートして、だんだん、僕の作った歌をリクエストしてくださる人も出てきて、今はアンコールやユーチューブで歌ったりしてますけど。賛否両論です。ちゃんと勉強しないで勝手に歌っているので、もっと歌って下さいという声援もあれば、もう２度と歌うな、という厳しいご意見もときどき（笑）」
　優しい声で楽しげに、言葉を選びながらていねいに、低いトーンで話してくれる。もう23年もパーソナリティを務めている人気ラジオ番組『弾き語りフォーユー』（ＮＨＫＦＭ）そのままだ。
　その活動は多彩で多才、けれど華やかな活動のその裏側には、才能や運だけでは乗り越えられなかったはずのハンディキャップや事情が、いろいろとあったようで。
　今週のＹＥＯは、ピアニスト小原孝を主人公に金曜日まで連日更新。彼がデビュー以来30余年、どうしてこんなにみんなに愛されてきたのかを知りたくて、今までのこと、根掘り葉掘り聞いてみた。彼の話を聞いてるうちに、ちょっと勇気が出て、ちょっとあったかい気持ちになれて、ちょっと彼のピアノの音を聴いてみたくなる、はず。