さくらが4年前から同居しているカメラマンの山岸伸さんは今、ふたつの大きなプロジェクトを進行中だ。
 ひとつは『瞬間の顔』シリーズ。男性千人の顔を撮る、というものだ。
「今まで、女性を撮りすぎたんです。病気がわかったときに、もう、そんなに女性を撮り続けられないだろうと思った。女性はキレイに撮ってあげないと、かわいくしてあげないといけないって、それは僕の流儀なんです。だからすごく自分の力、エネルギーを消耗することになる。でも男性は逆に、素のままを撮らせてもらうだけで、力をくれるんです。ドアを開けた瞬間にオーラを感じるような人ばかりだし。
 この前は総裁選に出る2時間前に岸田文雄さんを撮らせてもらったし、ヤクルトの村上宗隆選手も、優勝を決める2日前に撮りました。思想とか好みとか関係なく〝今やるんだ!〟という気合が伝わってくる。そういう喜びを、男性は与えてくれるんです」
 もうひとつは、ばんえい競馬の撮影だ。
「15年くらい前から撮り始めたんですけど、僕、動物嫌いですから(笑)、最初は競馬場が臭くて、ウンチもいっぱい転がっているから、ちゃんと歩けなくてね。馬にも触れないし。でも朝の競馬場、朝の調教風景が、すごいんです。馬が、そこで生きているのがわかる。
 そしてマイナス10度の中、馬が来るのを待つ時間が、僕にとってすごく貴重なものになってきた。いろんなことを考えるんですよ、家のこと、事務所のこと、世界全体のことまで。競馬場にいると、冷静になれる。何かが見えてくる。馬を見ながら、すごい冷静にものを考えて、そして、心が鎮まっていく。競馬場で馬を見る、ということが、僕にとって、何かとても意味のあることになりつつあるんです」
 たぶん、犬は、そして馬も、命のカタマリ。夢中で、必死で、他のことは何も考えずに、今を生きている。それだけで尊い。それだけで十分。それこそが生きて行く理由であり、生きる力になる。
 たぶん、人も同じ。今、目の前のことだけに集中して、今を大事に、この時を限りに生きていれば、ハッピーになれる。
 だから人は、犬を飼う。犬と一緒に生きる事を選ぶ。
 で、そんな山岸さんと佐藤さん、プロのフォトグラファーであるふたりは、さくらを被写体にどんな写真を撮っているのだろう?
 山岸さんに聞いてみたら、
「撮らないよ、さくらは。撮ろうとも思わない。だって、さくらだもの」
 佐藤さんに聞いてみたら、
「昔、さくらの後ろ姿を撮った1枚が写真展のポスターに使われたことがありましたけど、それもたまたま、偶然に、ね。さくらをモデルに作品を撮ったり、それを発表することは、ないですね」
 今回、YEOに出てくれたのも、20歳のワンコ・さくらを主役に、というハギニワ氏のオファーがあったから。ふたりにとって家族であり、相棒でもあるさくらの物語が、きっと誰かの心に響く、そんな思いがあったから。
 山岸さんが、声をかけた。
「天気が良いから、さくら、外を歩いてみようか」
 よろよろと、だけどしっかりと、さくらが歩く。それを見ているだけで、幸せになる。

  • 出演 :さくら

    2001年6月11日生まれ。幼いときに写真家の佐藤倫子氏の元で暮らし始める。
    4年前から佐藤倫子氏の婚姻に伴い、写真家山岸伸氏とも同居を始めた。

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/