犬の飼い方は、飼い主それぞれ。エサの与え方から育て方、躾け方、かわいがり方まで百人百様だし、その犬のありようも違う。犬自身が正直、どう思っているのか聞く手だてもないから、何が正解なのか、わからない。
「実家でも犬を飼っていたのですが、どの子もみんな野良出身でした。捨てられて放浪して、心が傷ついてわが家にたどりついたんです。その子たちが少しずつ心を開いてうちの子になって、表情も変わって幸せになって、最後亡くなるのを3匹、見届けてきました。だからこそ、さくらには、つらい経験をさせたくない。幸せだけを与えようと思いました。生まれたときから、あなたが世界で一番のわんちゃんよって、ひたすらカワイイカワイイって育ててみようって、思ったんです。一切のネガティブワードは排除して、とにかくあなたは一番よ、良い子良い子って。もちろん、悪いことをしたときは叱りますけど、そんなの、たかが知れてますからね」
 種類にもよるけれど、犬の寿命はさほど、長くはない。
「フレンチブルだったら6年か7年と言われているようです。ですからこの子も、飼い始めた当初から、思っていました、〝いつかはこの子、いなくなっちゃうんだな〟って。長生きしたところでせいぜい10年かなって。それがいつのまにか、20歳です(笑)」
 長生きの秘訣は、わからない。わかっているのはひとつだけ、さくらの生命力だ。
「とにかく食欲だけはすごいです。食に関してすごく欲がある。実家に預けていた時期もあるんですけど、実家では縁側に来る外猫に、餌をあげていたんですね。その猫たちの食べ残しまで、毎日狙っていましたから(笑)。
 それと、母がずっと酵素をあげていたのも、効いているのかな? わかりません。
 たまに動物病院に連れていって検査してもらうと、歳をとってからは多少腎臓の数値が悪くなりましたけど、いたって健康ですって言われていました」
 そんなさくらに老化の兆しが見え始めたのは、3年前のこと。
「あれは今から想えば脳梗塞だったかなと思うんですけど、ある日突然、右回りにぐるぐるぐるぐる歩き始めたんです。左の脳に問題が起こると、右回りするって聞きました。その後痙攣を起こして、目をむきだして形相が変わるほどで、泡を吹いて。ああ、とうとう死んでしまうのかと思いました。それから失明したらしく、目の焦点が合わなくて。足もおぼつかなくなり、ぼうっとしているんです。でもしばらくしたら、だんだん目が復活して、身体も動くようになって、また歩けるようになりました。
 それと同じようなことがもう1回あって、そのときはご飯も食べられない、水も飲めない。いよいよ覚悟したけれど、今度も必死に歩き始めて、ご飯を出すと必死で食べるんです。そうやって2回目の発作からも、無事に生還しました。
 自力でリハビリしたんですね! お医者さんは、〝すごい生命力ですね、人間ではありえません!〟と、驚いていました。その後、友人のお医者さまにその話をしたら、〝人間の愛情はものすごく大事なんだよ〟って。まあ、愛情の成果かどうかわかりませんけど、さくらは何があっても淡々と、生き延びているんです」