1 フレンチブル、じゃない!
二十歳のわんこ さくら
- Magazine ID: 4055
- Posted: 2022.01.10
今週のYEOの主人公は、さくら。20歳になる犬だ。
飼い犬の寿命が長くなっているとはいえ、20歳というのはかなりのご長寿。そして20年という生涯を通じて、それなりのドラマを生き抜いてきたはずだ。さくらは今まで何を見て、何を感じてきたのだろう? 今、何を思うのだろう?
詳しく聞きたいところだけれど、あいにくインタビューが難しい。そこで飼い主の写真家・佐藤倫子さんから話を聞いた。
「20年前、犬が飼いたくなって、ネットでいろいろ検索したんです。そしてようやく〝この子こそ私の理想!〟と思える犬が見つかって、その子がさくらでした」
どんなイメージで探していたか、というと。
「漫画の『ピーナッツ』のスヌーピーみたいな犬が好きなんです。あれはビーグルですけど、ビーグルだと私には大きすぎるイメージがあって。それにビーグルは猟犬だし、せわしない感じがして。で、この子はフレンチブルドッグとして紹介されていたんですよね。ブルドッグには私、ちょっと思い入れがあるんです」
その少し前、佐藤さんがニューヨークに滞在していたときのこと。
「実はその頃、私、人生最大のどん底だったんです。何もしたくない、何も欲しくない、生きている理由も見つからない。そんなときに近所のペットショップでブルドッグの赤ちゃんを見つけて、ピンク色のしっとりした肌の質感や、ドスンとした落ち着きのあるたたずまいに惚れ込んでしまって、毎日毎日、その子に会いに行きました。まわりの人は、私がその犬のおかげで生気を取り戻したことに驚いていました。でも、帰国することになって、日本に連れて帰ろうと思ったけど、検疫がすごく大変で犬には負担になると知って、泣く泣く諦めたんです。で、日本に戻ってから、やっぱり犬が欲しい、あの子みたいなブルドッグを飼いたいな、と思って。でもブルは力が強いから、フレンチブルドッグにしておこうか、と」
そんなこんなで、フレンチブルドッグのブリーダーのサイトで、この犬を見つけた。
「それにしては鼻がつぶれてないな、と思いましたけど、べつに犬種は何でもよかった。この子だ、と思ったんです。九州のブリーダーさんだったので連絡を取って、売買が成立して、飛行機で送られてきました。今はそんなことできなくなりましたけど、当時は荷物扱いで送ってもらうことができたんです」
羽田空港で受け取りを待つ間、その場には同じように空輸されてくる犬を待つ、数人のペット業者が居合わせた。フレンチブルを待っている、という話をすると、みんなよろこんでくれたという。ところが、
「私がこの子を受け取って、抱き上げて〝やっと会えたね! ようこそ!〟って話しかけていると、そのペット業者の中のひとりが、〝それ、フレンチブルじゃないよ! 駄犬だ、駄犬! すぐに送り返せ!〟って大きな声で言うんです。私は別に、フレンチブルが欲しかったわけじゃない、この子が良いから選んだのに」
しつこく〝それはフレンチブルじゃない!〟と言い続ける業者を振り切って、佐藤さんはその犬をわが家に連れ帰った。
「でもよく見ると、フレンチブルに見せかけるためなのか、尻尾の毛を刈って小細工していたんですよね。その姑息なやり方に腹がたって、ブリーダーにすぐ電話して〝どういうことなんですか?〟って聞きました。すると、〝絶対に母犬はフレンチブルなんですけど、えーと、父親は、万が一、ひょっとすると……〟って(笑)。その3日後に、私が振り込んだ代金を返金してきたんです。結局、タダの犬になっちゃった(笑)」
犬種がなんであれ、その犬はその日から、佐藤さんの犬になった。
「私にとっては、一点モノの犬だと思っています(笑)」
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出演 :さくら
2001年6月11日生まれ。幼いときに写真家の佐藤倫子氏の元で暮らし始める。
4年前から佐藤倫子氏の婚姻に伴い、写真家山岸伸氏とも同居を始めた。YEOからお知らせ:YEO専用アプリ
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取材/文:岡本麻佑
国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。
撮影:萩庭桂太
1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
http://keitahaginiwa.com/