名前は、さくら。
「茶色いし足が長いし、バンビちゃん、と思ったんですけど、メスなのに、どう見ても男顔なんですよね。しかもドスの利いた声でウォウッって吠えるから、みんなにオスですか？って聞かれる。ですからいかにも女の子、っていう名前にしました。寅さんが好きなので、妹のさくらの名前を」
　なのに、女の子っぽい性格ではなかったようで。
「とにかくすごい勢いで走り回るんです。散歩に行こうとドアを開けると、すぐにスイッチが入って、そのまま飛び出して家の前の商店街を突っ走る。いつもなりふりかなわず〝さくらー！〟って叫びながら商店街を追いかけるので、一気に有名になっちゃいました（笑）。足の肉球が大きいし爪も大きいし、ドアや扉は簡単に開けてしまいます｡一度、台湾の友だちが送ってくれた烏龍茶の袋を勝手に破いて、中のお茶を食べてしまった事件がありました。すごい量の水を飲んで、お腹がバンバンにふくれて、お茶の成分の影響なのか夜中、壁から壁に体当たりしてました。次の日には元に戻りましたけど」
　さくらを見つけた頃は佐藤さんにとって人生最大のどん底時代、だったはずだけど。
「闇の時代はいつの間にか終わっていました（笑）。それまでの私は、人生のシャッターを下ろしていたんです。でもさくらを毎日見ていると、この子はいつも、全部100％なんですよ。朝起きて伸びをして、大きなあくびをひとつすると、スイッチが入る。そこから何をするにも全力です。食べるのも全力、ウンチするのもオシッコするのも、匂いを嗅ぐのも遊ぶのも、本当にＭＡＸで生きているんです。こんなに一生懸命100％で生きている犬をずっと見ていて、それに比べて自分はダメだなって。私も必死に生きなくちゃ、と思って、シャッターを開けることができたのです。当時の私はそういう、生き物の力が欲しかったのかなと思います。生きるってこういうことなんだ、というのを、その時さくらに教わったんです。だからさくらと出会ったのは、運命。私にそこまで大きな影響を与える犬は、それまでいなかった。人間でも、いなかった（笑）。相当な力を私に与えてくれました」