ミュージカル『シカゴ』にハマり、再びニューヨークを訪れた大倉杏菜は、またもや『シカゴ』を観に、ひとりブロードウェイへ。舞台がはねた後、興奮さめやらぬまま、劇場の裏口に向かった。そこには帰宅する出演者をひと目見ようと、出待ちをするファンがひしめいている。その集団に近づくこともできなくて、ちょっと外れたところで待っていたら、彼女のすぐそばにあるドアがそっと開いた。出てきたのは、大倉杏菜にとってもはや憧れの存在になっていたアムラ=フェイ・ライト。長年『シカゴ』のメインキャスト、ヴェルマ・ケリーを演じ続けている、ブロードウェイの大スターだ。
「わーっと思って、駆け寄りました。I’m from Japan! あなたのお芝居すごく良かった、みたいなのを言ったら、〝あなた、私の日本人の友だちのナントカさんと似てるわ〟って。すると遠くにいたファンたちが気付いて、こっちに来るのが見えたんですね。で、アムラさんは〝駅まで走れる?〟って私の手を取って、全速力で走り始めたんです。〝うちはちょっと遠いから、電車に乗り遅れたら大変なの!〟って。そのまま駅に走りこんで一緒に電車に乗って、話の続きです。〝名前は? ブロードウェイのバックステージは観たことある? じゃ、今度『シカゴ』を見に来ることがあったら私が案内するから、連絡ちょうだい〟って、連絡先を教えてくれたんです。あんな大スターが地下鉄で帰るんだ、っていうのにも驚いたし。なんか、夢でも見てるような展開でした」
 その1週間後、約束通り、アムラはブロードウェイのバックステージを案内してくれた。『シカゴ』のステージで一緒に撮った写真は、大倉杏菜の一生の宝物だという。
「しかも、その後も週に1回、裏口で待ち合わせて駅まで一緒に歩きながら、おしゃべりしてくれました。私の英会話が上達するようにって。〝家族は? きょうだいは何人いるの?〟みたいな話を。本当にアムラさんはフランクで優しくて思いやりがあって、人として素晴らしい人です。そして私と話しているときとヴェルマとして舞台に立っているときの目は全然違う。歌っているときとステージサイドにいるときもまた違うし。本当にいろんな顔があって、引き出しがいろいろあって、憧れます。ああいう人になりたいです!」