このYEOの撮影のため、向かったのは都内某所にある大きな公園。緑の水をたたえた美しい池のまわりにはさまざまな木が生い茂り、大きな空が迎えてくれる。
「ここは私が生まれた家の近くで、幼い頃は父に連れられて、毎週日曜日にはボートに乗せてもらいました。私は独立心の強い子だったのか、小学生のころから、何かイヤなことがあると、ひとりでここに来て泣いたり、公園のベンチに棲みついていた浮浪児さんとお話したり、していたの。今でも大好きな場所だし、ここに来ると心が落ち着く。そうね、この公園は私のソウルメイトと言ってもいいかもしれません」
 この公園まで、彼女のスタジオから、徒歩20分。公園を一周しながら撮影し、戻ると1時間が経過していた。その間ずっとサクサクと歩き続け、元気いっぱい! 
「私ね、今年で80歳になります。そう言うと、たいてい驚かれるけど、別に隠しているわけじゃないし。だから最近、新聞に取材されたときにちゃんと80歳って公表しました。でもだからって、自分の年齢について何も感じません。だって、何も変わらないから。今のところ、健康ですしね」
 とはいえ数年前、病に倒れたこともあった。大切な手に麻痺が残り、ピアニストとして復帰が危ぶまれた時期もある。
「その時は、ああこれでやっともう、ピアノを弾かなくていいんだって、ほっとした気持ちもあったんですけど(笑)。でもリハビリを楽しんでいたら、いつのまにか治っちゃった。あまりブランクもなかったから、私がそんな大病をしたこと、知らない人もいると思います。その他にも何度か、生きるか死ぬかの病気、しているんですけどね」
 強靱なメンタル。その背景には、どんな状況をも受け入れるという、深い意志がある。
「このコロナ禍も、ちょっと語弊がありますけど、私自身は幸せに暮らしています。もちろんこんなこと、私の人生になかったし、大変な状況ですよね。たとえばオーケストラのメンバーの方たちとか、いったいどうやって家族をサポートしているんだろうって、心配だし、早く終わってくれればいいと祈っていますけど。
 でも個人的には、その時その場の状況の中で生きるしかないと思っているし、できることなら、何かトラブルがあったとしても、それを面白がりたい。いろいろなことが人生にはあるわけだから、毎日風が吹いたり雨が降ったりするわけだから、それはそれで、仕方のないこと、受け入れるしかないことだと思うんです。自分がどうすることもできないことには、逆らわない。今、自分のできることに集中するしかない。できないことを数えて嘆くよりも、できることを見つけて、楽しみ倒す。それが私のフィロソフィーかな」