魂がこもっている。
 太田光美の羊毛フェルト作品は、そう言われることが多い。単にリアルなだけでなく一体一体が、ひとつの命なのだ。
「作るときは、思いつくまま、流れに任せながら作っています。で、途中から作品が生きてくるんです。急に〝今、入った!〟って思う瞬間がある。なんか、カッコいいことを言うつもりはないんですけど(笑)、でも本当に、あるんです、そういうことが。そうなるともう、私はこういうふうに作ろうと思っていても、逆らってくることもあるし、その流れに従って仕上げていくしかないんですよね」
 そうやって作り上げた作品を、どうやって発信していくか。太田光美は考えた。
「私は藝大とか美大を出ていないし、アート関係のバックグランドがゼロなので、評価していただくのが難しいんです。だからとりあえず、海外の展示会に出展することにしました。出展費用がかかるし、渡航費用もかかりますけど、作品が良ければ興味を持ってくれる人は多いし、買ってくれる人もいます。そういう経験を積んで、逆輸入という形でいくしかないかな、と」
 モノは試し、とパリやロンドンでイベントに出品したりグループ展を開くと、反響は大きかった。羊毛協会の専門誌が何ページも割いて特集するほど、太田の作品はインパクトが大きかったようだ。
 その結果、日本でも太田の活動に注目が集まり、その作品世界には今や、熱烈なファンがついている。
「でも、まだまだこれから、と思っています。羊毛フェルトをアートとして認めてくれる人は少なくて、ハンドメイドとかクラフト、手芸のひとつ、と思っている人が多いんです。そうなると残念ながら、絵や彫刻が高額でも驚かれないのに、羊毛作品は安く見られがちなんですね」
 たとえば、ボブキャット一体を作るのに、彼女が費やした時間は、数か月。納得のいくものにするためには、膨大な時間と情熱、そして技術が必要だ。
「サンプルとして小ぶりの簡単な作品を作るだけなら、3日でできるモノもあるんですけどね。ディテールにこだわってこだわって、歯や舌や鼻や肉球とかをいろいろな粘土で作り込んでいくと、あっという間に時間が経ってしまう。土台を成形してから植毛していくんですが、植毛する毛を、専門のカーダーという器具をすり合わせるように使って、色を混ぜて作るだけでも、何日もかかります。本当に、割の合わない仕事だなって(笑)」
 もちろん、『ウチの子そっくりに作って欲しい』というオーダーは日本中、いや世界各地からも殺到しているけれど、基本的には現在、個別の注文は受け付けていない。
「オーダーは本当に大変なんです。家族同然に過ごしてきた子をモデルに作るとなると、とにかく神経を使いますし。抱っこしたりできるぬいぐるみ感覚の方もいたりするので、まずそこから説明しなければいけない。今でこそ価値を認めてくれる方も増えてきましたが、一般的な認知としてはまだ時間がかかりそうです」