偶然目にしたテレビ番組で、太田光美は初めて、羊毛フェルトを目にした。
「その番組では、羊毛フェルトの作家さんの作品が取り上げられていたんですけど、それを見て私、生意気にも〝あ、これなら私にもできるかな〟って(笑)」
 もともと、モノを作るのが大好き。裁縫も編み物も、小さい頃から見様見真似の自己流で、作ってしまうことが多かった。
「とりあえずインターネットで調べて、作ってみました。ちょうど姉の誕生日プレゼントを何にしようか考えていたので、姉の愛犬をモデルに。それを見て姉はすごく喜んでくれました。姉の職場の人たちがそれを見て、自分にも作って欲しいと言ってきたので、引き続き、犬を数体作りました。そこで私、ちょっと調子に乗ったんです。私でもいい線いけるんじゃないかって」
 〝調子に乗る〟のは、太田光美の得意技なのだそう。
「そこそこ器用なものですから、何を始めても最初からパッと出来て、ほめられて、すぐ調子に乗っちゃうんです。でもその後、何かでちょっとくじけたり、壁にぶち当たると、すぐにやめちゃうクセがある。いつでもなんでも、中途半端。壁を乗り越えたことって、ないんです。
 それまで女友だちにも、ずっと言われていました。『テルちゃん、1回でいいから、なんでもいいから、3年続けてごらん』って。英会話を教えてくれていた友だちには、『わからないことがあったら、すぐに人に聞かないで、自分でまず調べなさい』って。習っていてもうまくいかないと、私はすねちゃうから、『だったらお金を払って自分で勉強しろ』って。
 何をやっても続かない。人の話をろくに聞かないし、本当に私、どうしようもなかった」
 ところが羊毛フェルトは、続いた。3年経っても壁にぶち当たっても、辞めようとは思わなかった。それどころか、次々と新しい課題を見つけ、自分の力で成長していった。
「当時は、羊毛フェルトのリアル系な作品というと、たいてい犬や猫のモチーフを見かけることが多かったんです。だったら私は違うのを作ろうと思って」
 作ったのは、リクガメ、タランチュラ。コモンマーモセットに、ピグミージェルボア。定番の犬や猫などを作るときはもちろんのこと、珍しい動物に取り組むときは、徹底的に資料を当たり、骨格や習性、動きの特徴を頭に叩き込んだ上で、取りかかる。
「最初の頃は全部羊毛フェルトで作っていたんですけど、途中からリアルを追求して、肉球や歯、鼻や舌をいろいろな粘土や他の素材でも作るようになったんです。あれこれ作っては試して、試行錯誤の連続でした」
 できあがった作品をFacebookに掲載するうちに、『横浜ハンドメイドマルシェ』に誘われて、出展。それを見た人から今度は、齧歯類のデグーを実寸大で、とオーダーされた。
「一生懸命作りました。そのデグーは、お渡しするとき、依頼してきた方が作品をひと目見て、泣き出したんです。(ペットとして飼っていた)○○ちゃんにそっくり。誰にも触らせない、一生大事にする、とおっしゃっていました。私も本当にうれしかった」