ところで。肩書のジャズヴォーカリスト、ジャズシンガーとはどう違うんですか?
「何が違うんでしょうね。私にもよくわからないです」
 とはいえ、Shihoの歌には、彼女の声には、ただのシンガーでは片付けられない何かがある。凄みなのか、人生なのか、それともそれが個性なのか。
「私あの、最近よくライブのMCでも話すんですけど、ジャズのスタンダートとされているものには、けっこう深い物語が秘められているんです。ハタチくらいの頃は古いスタンダードナンバーをよく歌っていて、若くてバカだったから、普通の曲より難しい曲にチャレンジしたくて、その中に『ラッシュライフ』という曲があるんですけど。
 直訳すると〝飲んだくれ人生〟、ある男の人が何度も騙されているのにまた女性に恋をして、あんなに本気だったのにやっぱり間違えちゃったよ、また孤独な人生に戻ってしまったっていう歌詞なんです。
 ハタチの私は内容を理解して歌っていた、つもりだったけど、いやいや、全然わかってなかったな、と。やっぱり大人にならないとわかんないことがある。今45歳になって、それでも周りから見たらひよっこかもしれないけど、自分が経験したこととか、周りにいるジャズミュージシャンのオッサンたちを見ていてわかったこととか、そういうことが自分の中に貯まって、ようやく最近ちゃんと歌えるようになってきたな、と。
 若い頃、ジャズ箱に出現するジャズオヤジみたいな年上の男性たちに、もっと恋をしろとか、いろいろ言われて、その頃は内心〝うるせーわ〟とか、思ったりもしましたけど。自分で経験したことを歌うのと、そうじゃないことを頭で理解して歌うのとでは、全然違う。今になって、昔からすごくよく知ってるスタンダートの曲の歌詞を見て、改めて号泣しちゃうこともあるし。やっぱり人生重ねないとわからないことって、音楽に限らず、たくさんあるんだなって。なので年齢をかさねてジャズをやるのって、すごく楽しいなって、思うんですよね、最近」