「落語が面白いのは前から知ってるし、飛行機に乗ったときは必ず機内放送の落語聞いたりするんだけど、寄席には行ったことないな」
 とは、ハギニワ氏の弁。ウンウン、と共感する人も、多いんじゃなかろうか。でも落語は、やはり生が一番。寄席でもホール落語でも、チャンスがあったら見てみてほしい。
「今回、この新型コロナの騒動で配信落語が増えましたけど、それを見た人は〝やっぱり落語は生が一番だ〟って再認識してくれたんじゃないでしょうか。早く状況が元に戻って、生の落語を楽しんでいただきたいですね」
 ここで志う歌師匠から、落語初心者にアドバイスがひとつ。
「あのね、あの、落語通と言われる人たちに負けないで欲しいんです。お客さんに聞いた話なんですが、寄席に行くと、落語通がふんぞり返って、偉そうにしているんですって。で、落語聴くの初めて、みたいな若い女性がいると食らいついてきて、この話はここが面白いとか、こんなところで笑っちゃいけないとか、いろいろうるさく言うらしい。そういう奴は無視して下さい(笑)。落語って何か予備知識が必要なものでもないし、何も知らなくても楽しめます。初めてだと寄席は入りにくいかもしれないけど、そこはまあ、非日常を楽しむ感覚で。ディズニーランドとか歌舞伎みたいな華やかさはないけれど、地味に面白いところなんで、一度来てみたらどうでしょう?」
「もっとふつうに、飲み会とか人が集まったときに、さらっと聴けるといいのに」
 というハギニワ氏の要望には、こんな答が。
 「そうですよね、世間話の延長だと思います、落語って。その世間話の延長にお金を払っていただくわけですから、落語家は切磋琢磨しないと、ですね(笑)」
 落語の技量だけでなく、人としての成長が期待されるこれから先。心がけているのは、やりたいことを100%やる、その姿勢だという。
「やりたいことをやりたいようにやっていれば、自ずと、自分のアンテナが鋭敏に働いてくれると思うんです。やりたくもないことを中途半端にやっていると、アンテナがぶれたりボケたり、ろくなことにならない。だから100%の力を注いで飯を食う、100%の情熱で寝る。サボりたくなったら、何がなんでもサボる。そういうことをいちいちくり返していけば、おそらく何かがアンテナにひっかかると思うんです。どうしたって私は古典落語というフィルターがあるので、それが常に働いていますから、アンテナにひっかかったものは必ず落語的な解釈やら高座の自分に跳ね返ってくる。活かすことができると思います」
 なんだかとても、ストイック。とはいえ、そのマジメさをくるっと着物の袖に隠して、飄々と彼は歩いていく。
「うまいね、と言われるよりも、面白かった、と喜んでもらえるような、そんな噺家をめざします。はい、今後、ごひいきに」

  • 出演 :三遊亭志う歌  さんゆうてい しうか

    1982年7月7日生まれ。東京都出身。二松学舎大学を中退して2004年8月、三遊亭歌武蔵に入門。2005年から歌ぶとという名で前座を勤め、二つ目になってからは歌太郎を名乗った。2017年10月、NHK新人落語大賞を受賞。2020年3月真打に昇進し、三遊亭志う歌に改名。

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  • 【公演情報】
    真打ち昇進披露興行 (落語協会の真打昇進披露興行の代替興行)
    志う歌の出演日 
    8月上席(1~10日)新宿末広亭 1日、4日
    中席(11~20日)浅草演芸ホール12日、14日
    下席(21~30日)池袋演芸場 21日、30日
    Information
    【歌太郎改め三遊亭志う歌 真打昇進披露特別公演記念DVD】
    6月14日、観世能楽堂で行われた公演を収めたDVDを発売。
    2000円(税込)+500円(送料)
    問合せ先  utataroudesu@yahoo.co.jp

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。
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  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/