お久しぶり! のYEO、今週の主人公はこの人、三遊亭志う歌。今年3月、真打に昇進したばかり。若手実力派として注目の落語家だ。二つ目時代の高座名、三遊亭歌太郎という名前で知っている人も、多いかも知れない。
 落語が上手くて江戸前で、〝え? まだ真打じゃなかったの?〟ってツッコみたくなるくらい、その着物姿には落ち着きがあり、ちょっとした貫禄すら感じさせる。
「そんなことないですよー(笑)。全然です。まだ38歳ですから、自分が真打になるに足るだけの器になっているかどうか、怪しいものです。でもね、なってみないとわからない、ということもある。立場が人を創るとか、仕事が人を育てるとか、言うじゃないですか。大事なのはこれから、と思っています」
 この春は世界中に新型コロナウイルスが蔓延するという非常事態。感染を抑えるためにさまざまな対策が取られた。本来なら新しいスタートを切るはずだった人たちにとっては〝えー! なにこれ? どういうこと?〟という未曾有の事態があちらこちらで展開し〝なぜ、よりによって今?〟と、悲鳴が渦巻いた。この志う歌さんも、そのひとり。
 3月末から真打襲名披露興行が始まり、真打としてフルスロットルで活動開始のはずが、寄席もホールも興行自粛モードに突入し、ほとんどの公演が中止か延期。宙ぶらりんの春になってしまったのだ。前座と二つ目、合わせて約15年のサナギの時代を経て、ようやく羽根を広げて飛び立つばかりだったのに。
 そして自粛要請がようやく、徐々に緩和され始めた6月14日日曜日、GINZA SIX内の観世能楽堂で『歌太郎改め三遊亭志う歌 真打昇進披露特別公演』が披かれた。もちろん観客の入場は制限されていたけれど、有料ライブ配信には500名以上が参加。師匠の三遊亭歌武蔵をはじめ、柳家喬太郎、春風亭一之輔、立花家橘之助、柳家小満んら当代の人気者をずらりと揃えた口上は、大盛り上がり。シメに登場した志う歌が大ネタの『文七元結』を語り、会は無事おひらきに。会場の隅っこで聴いていたハギニワ氏も、〝面白かった!〟と感激しきりだった。
「『文七元結』っていうこの噺、難しいですけどね、好きですね、難しいですけどね」
 五十両という大金を巡って父親が、娘が、若者が右往左往する物語。老若男女、さまざまな年代や立場の登場人物を瞬時に、絶妙に演じ分け、聴く者を江戸の世界に引っ張り込んで、最後にはほっこりじんわり、あったかい気持ちにしてくれた。
「こんな昔の江戸の話が現代の日本人にどんな役に立つのか、落語はいったい何を伝えたいのか、一時期よく考えたんですけど、今はもう、いちいちそういうことを考えるのは止めました。落語って形がなくて曖昧で、結局は聴いてくださるお客さまのものですからね」
 声がよくてリズムが快くて、口跡がキレイで聴きやすい。落語のこと、あまりよく知らない人も、志う歌の落語ならきっと、すっと心に入ってくる。今週のYEOはそんな三遊亭志う歌をクローズアップ。ふだんあまり接点のない、落語家さんの日常とアタマの中を、金曜日まで連日更新しながら、覗いてみたいと思います!

★ちなみに、真打昇進披露は8月、代替興行が決定。(→公演情報)
6月14日の特別興行を収録したDVDを発売中(→Information)

  • 出演 :三遊亭志う歌  さんゆうてい しうか

    1982年7月7日生まれ。東京都出身。二松学舎大学を中退して2004年8月、三遊亭歌武蔵に入門。2005年から歌ぶとという名で前座を勤め、二つ目になってからは歌太郎を名乗った。2017年10月、NHK新人落語大賞を受賞。2020年3月真打に昇進し、三遊亭志う歌に改名。

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  • 【公演情報】
    真打ち昇進披露興行 (落語協会の真打昇進披露興行の代替興行)
    志う歌の出演日 
    8月上席(1~10日)新宿末広亭 1日、4日
    中席(11~20日)浅草演芸ホール12日、14日
    下席(21~30日)池袋演芸場 21日、30日
    Information
    【歌太郎改め三遊亭志う歌 真打昇進披露特別公演記念DVD】
    6月14日、観世能楽堂で行われた公演を収めたDVDを発売。
    2000円(税込)+500円(送料)
    問合せ先  utataroudesu@yahoo.co.jp

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。
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  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/