日本に戻り、自分を好きになれた後も、試練は続く。
「30代に入った頃、一時期悩みました。顔が濃すぎるせいか(笑)、役に合わない、相手役とバランスが取れないという理由でオーディションに落ちてしまうことが続いたんです。このまま女優をやっていていいのかな、と。でも、ひとりでも〝いいね〟とか〝好きです〟って言ってくれる人がいれば、やっていいんだ、と思えるようになった。誰もダメだなんて言ってこないのに、なんで自分からダメだなんて思ったんだろう? ひとりでも〝良かったです〟って言ってくれる人がいるんだったら、続けよう。とりあえず、長い目で見ながら全力疾走してみようって」
 2016年、映画『月光』に主演したことも、大きなターニングポイントになった。佐藤乃莉が演じたのは、性的暴行を受け、深く傷つきながらも、再び歩き出そうとする女性だ。
「撮影一日目から、襲われるシーンだったんです。撮影後、毛布を被りながらふと〝あれ、私、なんでこれやってるんだろう?〟って思いました。おはようございますって挨拶したばかりの初対面の人とキスしたり、もみあったり〝なんだこれ?〟って。でもやめないのは、好きなんだなって思います、演じるのが。そして映画が公開されてから、『この作品を見て良かった』『よく頑張ったね』と言って下さる方がいて、〝ああ、この役をやれて良かった〟と思いました。人の気持ちを動かせるような作品に出ることができて、良かったな、と。女優としての節目になりました。それもあってこれからも、なんとなく続けていけそうです」
 なんとなく続けるどころか、なんか、最近よくテレビで見かけているような。
「そうですか? 実は最近、ドラマにゲストで呼んでいただくことが増えてきたんです。ほら私、サスペンス顔じゃないですか(笑)。殺したり殺されたり、血だらけだったり、よくしてます」
 いろんな役を演じながら、ひとつ、肝に銘じていることがある。
「私がこの役を取ったことによって、この役をやりたかった何人かが泣いている。だから私はこの役に責任があるんです。で、その人たちが画面を見たとき、あ、この人だったらしょうがない、この人だったらこの役にぴったりだと言ってもらえるような仕事をしなかったら、私はこの仕事、やっちゃいけないと思う。そう思いながら、ひとつひとつの役を全うしていくつもりです」