3 一流の人たち
髙橋貢
- Magazine ID: 3972
- Posted: 2020.02.19
念願のファッション最前線、新井克英氏のアシスタントについて、髙橋はさまざまなことを学んだ。
「新井さんが現場に行くと、現場の空気が変わるんです。どこに行っても新井は愛称のボボちゃんボボちゃんと呼ばれて、一気に楽しい雰囲気になる。最初は、ただヘラヘラやってるだけじゃん、と思っていた時期もあるんですけど(笑)。ヘア&メイクは技術があればいいというものじゃない。良い作品を作るために、新井さんはそこまでやっていたんです。所詮ピエロ、されどピエロです。
もうひとつは、一流の人たちのあり方、ですね。ご一緒するスタイリストさん、カメラマンさん、誰も、偉そうにしていない。逆にアシスタントの僕の意見もちゃんと聞いてくれるんです。一流の人ほど、ちゃんと普通なんです。
新井さんにも言われました。〝今はたまたま、僕が師匠であなたがアシスタントだけれど、ひとつの良い作品を撮りたい、という思いは変わらない。どっちが上とか下じゃない、同じなんだよ〟って。それを聞いて僕、『この人で間違い無い』って思いました」
アシスタントについてから1年3ヶ月。今井美樹さんが初の全国コンサートツアーをやることになり、それに起用されたのを機に独立。以来、女優やアーティストからの依頼が引きも切らず、今の髙橋貢がいる。
最近よく担当するのは、テニスの錦織圭さん、ボクシングの井上尚弥さん。平野歩さん、石黒賢さん。昨年のG20と即位の礼では、安倍昭恵首相夫人が着物姿になったときのヘアメイクを担当した。ずっと担当していたのは森高千里さん、女優の浅田美代子さん。亡くなった三國連太郎さんにも、可愛がられた。
で、歌はどうなったんです?
「そうそう、その話でしたね(笑)。実は新井さんが、大の歌好きで。よく一緒にカラオケに行きましたし、一緒にカラオケ大会にも出ました。そうこうしているうちに、くすぶって抑えていたものが、種火は残っていたものですから、また火がついてしまって(笑)」
40代半ばくらいから、ふたたびヴォイストレーニングに通うようになったという。そして歌っているうちに、髙橋の中に覚悟のようなものが芽ばえた。
「ヘア&メイクだけど、僕は歌いたい。歌は僕の中で、二足のわらじじゃない。ヘア&メイクと歌、ふたつの表現があるからこその、僕なんです。ヘア&メイクだけじゃ、僕自身を表現できない。僕が僕でいるためには、歌はどうしても必要です。それを実感したのが、50歳になる頃でした」