父親はキリスト教の牧師であり、沢知恵は教会のすぐそばにある家で育った。そんな彼女にとってクリスマスは、特別な日だ。
「ですからクリスマスの歌を歌うコンサートをやるのは、自分のためでもあります。だってクリスマス・ソングって、名曲の宝庫なんですよ。長い年月の間みんなが歌い継いできた、賛美歌はある意味、民謡のようなものだと思います。そしてその中でもベスト・オブ・ベストの曲ばかりです。宗教色とは関係なく、音楽として素晴らしい！　『きよしこの夜』と、『ひさしく待ちにし』という13世紀に作られた古い賛美歌は、毎年かならず歌います」
　今年も12月、東京の下北沢、大阪、そして地元岡山の３ヵ所でコンサートを開く予定だ。
「昔は私、自分の歌を聴くのが嫌でした。聴けたもんじゃなかった(笑)。でも今は、音楽的にすごく成長したと思っています。〝こういうふうに歌って欲しい〟と自分が思うように、歌えていると思うんです。もちろんまだまだ、成長の余地はありますけど(笑)」
　幼い頃に憧れた、キラキラぴかぴかした歌手ではないけれど、沢知恵は歌うことに全精力を傾けてきた、そしてこれからも走り続ける、ひとりの歌手だ。
「好きなこと、したいことだけをし続けて、よくここまで来たと思います。メジャーな歌手ではないかもしれない、けど、売れなかったことによって得られたことも、けっこうあるんです、負け惜しみじゃなくて。本音を言えば、これからも好きなことをやって、そして売れたい(笑)。難しいのはわかっているけれど、でもいずれ、遅かれ早かれ、しかるべく、評価されると信じています」
　これからも、好きじゃないことをしてでも売れたい、とは、思わない。
「できないんです。だから、私の肩書きはこれからいろいろ、変わっていくかもしれない。間違って大学の先生になるかもしれないし、来年から岡山でゴスペルの先生に、というお話もあります。いろんなことをこれからもやっていくと思います。でも、何をしても私は歌手。生涯一歌手なのだと思います」