この人、柳澤寿男は指揮者。オーケストラの前でタクトを振る、音楽家だ。
 そして指揮をすることで、すごいことを巻き起こしてしまった人でもある。
 今週のYEOは、柳澤寿男がいかにしてその〈すごいこと〉を成し遂げたのか、のお話。なにしろ話が面白くて幅広くて深さもあるので、みっちり読んで欲しい。
 とりあえず初日の今日は、彼がいかにして指揮者となったか、のお話。
「今で言うとニートのようなものだったんです。音楽大学に入ってトロンボーンをやっていたんですけど、プロの音楽家になろうとは、どうしても思えなかったんだと思いますね。だから卒業してもフラフラしてたんですよ。何をしていいか、よくわかんなかったんですね、人生。
 たまたま生まれて初めての海外旅行でウィーンに行って、忘れもしない、1996年の2月26日に、楽友協会ホールというところでウィーンフィルハーモニーを小澤征爾さんが振るコンサートがあって、リヒャルト・シュトラウスの『アルプス交響曲』っていうのを聴きました。それが、素晴らしい演奏だったんです! アルプスの風景を音にした曲なんですけど、大パノラマみたいな壮大な音で。外国人演奏家たちをまとめている小澤征爾さんが、いかにも日本のサムライ、みたいに見えました。
 終わると、隣に座っていたウィーンのオバアサンが、涙ぐみながら僕に言うんです。音楽はすごいわね、って。僕もそうですよねって、涙ながらに手を取り合って、感激を分かち合った。でも後から考えると、その頃僕はドイツ語なんてしゃべれないし、わからない。そのオバアサンと何語で語り合ったのか、覚えていないんです(笑)。でもお互いわかりあっていたのは事実なんですよ。それが音楽の力かなって、思うんですけど。
 で、その会場を後にするときには心が決まっていました。僕は指揮者になるって。とにかくそう決めたんです。僕はこれ、僕の226事件と呼んでいます(笑)」
 日本に戻ってから、いろいろな指揮者に弟子入りを申し出た。でも、誰も相手にしてくれない。
「ただひとり、拾って下さったのが、佐渡裕さんでした。追いかけ弟子になって1年間、パリに留学しましたが、そこからはほぼ独学みたいなもので」
 そして2年後、東京国際音楽コンクール・指揮の部に、腕試しで挑戦したところ、
「2位になったんです。200人くらいの人が受けていて、でも僕はアマチュアのオーケストラをたった2回、振ったことがあるだけなのに、奇跡的に。佐渡さんはとても喜んでくれました。でもバックボーンが何も無いので、直感だけで2位を獲ってしまったので、そこからがすごい大変だったんです」
 金曜日まで連日更新。柳澤寿男の指揮者修業がどう大変だったのか、お楽しみに!

  • 出演 :柳澤寿男  やなぎさわ としお

    旧ユーゴを中心に活動する日本人指揮者として知られる。2005~2007年マケドニア旧ユーゴ国立歌劇場首席指揮者。2007年コソボフィルハーモニー交響楽団首席指揮者に就任。同年バルカン半島の民族共栄を願ってバルカン室内管弦楽団(以下BCO)を設立。同楽団とウィーン、ジュネーヴ、ベオグラード、ニューヨーク、東京などでWorld Peace Concertを開催し、諏訪内晶子、パスカル・ロジェ各氏などと協演。2020年7月来日予定。また9月にはロサンゼルス公演を予定。柳澤寿男とBCOの活動はBSジャパン(テレビ東京系)「戦場に音楽の架け橋を(日本放送文化大賞受賞)」など数多くのメディアで報道されている。ドイツ・ベルリンAUDITEとBCOのドヴォルザーク。チャイコフスキー両弦楽セレナーデのCDをリリース予定。著書に「バルカンから響け!歓喜の歌(晋遊舎)」。

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。
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  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/