雨のそぼ降る10月のある週末の朝、世田谷区内の某集会所に、三々五々集まってくる人たちがいた。年代も性別も雰囲気もバラッバラで、いったい何をする人たち?
 すると映像を流しながら、手に手に台本を持って、いきなりしゃべり出す。そこに、あっという間に映画の世界が広がって、物語が始まった。声優のみなさん、すごい!
「今日は来られなかった人も含めて、声優は総勢18名。私と一緒にミュージカルの舞台をやっていた仲間もいますし、オーディションで選んだ人もいます。フリーの声優さん、声優学校に行っていた方、あとは役者さんとかパフォーマーとか、さまざまです。みなさん映画が好きで、キネコに賛同してくれている人たちばかりです」
 そう言うのは、ライブ・シネマの声優チーム・クラス(KLA‘s/KINEKO  LIVE  ACTOR’s)のリーダー、涼木さやかさん。第10回のキネコ映画祭から参加している、ライブ・シネマのベテランだ。見ていると、声の出し方、演じ方、他の人との合わせ方などなど、涼木さんはみんなにいろんなアドバイスをしている。その声を聞いているだけで、世界観がますますクリアになり、どんどん盛り上がってくるのがわかる。
「ライブ・シネマはかけ合いと呼吸が大事なんです。ですから収録するアフレコとは、全然違いますね。吹き替えとはいえ、生きた会話じゃないと、観ている方の心に届かないんです。だからこういうふうに、あらかじめ集まって練習する必要があります。しかも私たちのライブ・シネマは〝ライブ〟、〝生〟なんです。スクリーンの横にマイクを立てて、私たちが声を出しているところもお見せするんですよ!」
 声優は裏方、でもここでは見える裏方、じゃなくて、見せる裏方なのだ。
「声優としては、私たちの存在を途中で忘れてくれるほうがいいんですけど(笑)。いかに画面と馴染むか、いかに自然に聞こえるか、違和感なく見ていただけるように頑張りますけど、頑張りが目立たないように頑張ります(笑)」
 このライブ・シネマ、もともとは字幕の読めない子どもたちも映画を楽しめるように考えられたシステム。ジェネラル・ディレクターの戸田恵子さんやプログラミング・ディレクターの中山秀征さん、スペシャル・サポーターの高橋克典さんや横山だいすけさんも参加するという。毎年好評なので、ライブ・シネマとして上映する作品がどんどん増えて、声優さんたち、大忙しなのだ。
「キネコはやっぱり、特別です。扱う作品が、なかなか日本では見られない作品が多いんです。世界中の作品が集まっていますから、いろいろな文化を背景に、いろいろな生活が映し出されている。そこには貧しさも戦争もあって、大人でも気付かされることがいっぱいあります。子どもと一緒に見て、あとからどこが良かった、どこが楽しかったと、家族の会話が生まれると思います。大人も子どもと一緒に楽しめる、こんな場があることが、すごく魅力的だと思います」