最近、日本の演劇はヴァリエイション豊か。ミュージカル人気が高くて、歌って踊れて当たり前。アクションも見慣れてきたせいか、キレッキレの動きじゃないと、客席は納得しない。役者には演じる以上のさまざまな要素が、求められる時代だ。
「人前で歌うの、本当に好きじゃなかったです。家でわーっと歌うのは好きなんですけど、カラオケとかも全然好きじゃなかった」
 でも、ミュージカルの舞台がある、そのオーディションとなれば、歌わないわけにはいかない。
「人生で初めてのミュージカルのオーディションは、『モモ』という作品でした。芝居とダンス、そして歌は自分でデモ音源を用意しろと言われたんですが、僕、何を歌えばいいのか、全然わからなかった。親が好きなサザンオールスターズとかユーミンは知っていたけど、どうしよう?と思いました。そこで欧陽菲菲の『ラヴ・イズ・オーヴァー』のカラオケを持っていって歌ったんです。すると、外国人の演出家が椅子から転げ落ちて笑うんですよ。他のスタッフも大受けで。僕以外に応募してきた人たちはみんな、ディズニー作品の歌とかミュージカルナンバーを歌っていて、でも僕はコテコテの歌謡曲だったわけで(笑)。ああ、もうこれ絶対ダメだ、怒られるだろうなって、落ち込みました。家に戻ったら案の定、すぐに事務所から電話があって、『お前、何やったんだ?』って。『すいません!』って謝ったら、『お前、受かったぞ。なんでこんなに早く合否が決まったんだ? 何をしたんだ?』って」
 『ラヴ・イズ・オーヴァー』で見事、役をゲットしたのだ。
「ちょっと自信がつきました。思い切って楽しく歌えば、なんとかなるって(笑)」
 以来、ヴォイストレーニングにも通って、歌は彼の得意分野になった。ミュージカルの仕事も次々に入ってきている。
「ダンスやアクションは、正直、小中高とずっとサッカーやってきたので、運動神経は悪いほうじゃないんです。現場で教えてもらって、負けず嫌いなので、こそっと勝手にスタジオに通って練習したり。殺陣もそうやって、なんとかクリアしてます。まだまだ勉強中ですけどね」