『桜姫~燃焦旋律隊殺於焼跡』の公演が間近に迫る『阿佐ヶ谷スパイダース』。昨年劇団として新たなスタートを切ったそのときに、オーディションではなく主宰・長塚圭史から直接劇団員への勧誘を受けたのが、この3人。ベテラン女優の村岡希美、以前から深い関わりをもっていた富岡晃一郎、そして美術担当の谷口綾だ。
村岡 以前から『阿佐ヶ谷スパイダース』の公演に客演という形で参加していたんですけど、圭史クンが〝今後、客演なしで、劇団員だけでお芝居を作りたい。劇団のメンバーになってくれない?〟と声をかけてくれて、その心意気というか、面白い試みだなと思いました。でも私は『ナイロン100℃』に所属しているので、そんな、劇団を掛け持ちするなんてことが可能なのか? と。ナイロン主宰のKERAさんに改めて確認してみたら〝いいよー〟と言ってもらったので、〝いいんだ!〟と(笑)。
富岡 僕も、自分でやっている劇団『ベッド&メイキングス』がありまして。それに僕は、それまでの阿佐スパの3人メンバー、長塚圭史・伊達暁・中山祐一朗のおまけみたいな感じで、20代からよく公演に参加していて、イメージ的にはずっと〈劇団員にはさせてもらえないメンバー〉と思われていました(笑)。で、僕の劇団の公演を見に来てくれた圭史さんが飲みの席で、〝トミーも劇団員になる?〟って聞いてくれたんで、〝なりたいなりたい!〟って。20年のときを超えて晴れて劇団員になりました。
谷口 私は昨年の『MAKOTO』のときに〝何でもいいからおてつだいさせて下さい〟って言って入ったら、たまたま美術をやる人が決まっていなくて、私の本業が美術なので、やらせていただいたんです。で、公演の終わりにそのまま〝劇団員になる?〟って言われて。で、今回は美術じゃなく〝演出部、やってみる?〟と言われたので、迷わずやってみることにしました。
 いったいどんな基準で〝劇団員になる?〟と声をかけているのか、オーディションではどんな人が合格したのか。今回、劇団員としてYEOの取材を受けてくれた人たちを見ていると、その答が見えてくる。なんだかみんな、あーだこーだ言いながら、楽しそう。楽しむことが上手な人たちなのだ。
富岡 だって、稽古場に炊飯器が置いてあって、みんなでおかずを持ち寄って輪になって食べている。〈同じ釜の飯〉をリアルにやってるところって最近珍しいですよね(笑)。それに稽古時間もフルでみんな参加してますし。
村岡 最近の商業演劇だと、今日は何時から何時までこのシーンの稽古、と決まっていて、みんな自分の出番が終わると帰っちゃうんですけどね。
富岡 阿佐スパはみんな一緒にいて、〝みんなで作ろうぜ!〟っていうのが基本だから。それも義務じゃなくて、楽しみながら。見てると楽しいし、一緒に過ごすということ自体がこの劇団なんだなって、すごくワクワクした気持ちでいられるんです。
村岡 大体劇団というのは、若いうちに立ちあげることがほとんどなんです。それが阿佐スパは、いろんなことをやってきたキャリア10年、20年、それ以上の人たちが、ちょっとこう、経験とか意識をリセットして劇団を立ちあげてみようとしている。そんな試みは聞いたことない、初めてのことだから、面白そう、ちょっとそれに乗っかってみようかなっていうのが、本音ですね(笑)。無理に楽しもうとすると、それはそれで嘘になるから、ずっとフレッシュな気持ちで、楽しめる自分でいたいと思います。
谷口 私も、美術じゃなくて演出部って、全然視点が違うし、やることも違うし、楽しいけど大変さもツラさもある。でも違うポジションの仕事を体験できるのが楽しいんです。もっといろいろなことができるようになってきたら、いいかなって。
富岡 今回の舞台、自分は遅れて稽古に参加したのですが、はじめて外から見たときにすでに面白くて。今の僕たちの勢いごと、まるごと、見てほしいです!
 公演開始は9月10日、吉祥寺シアターにて。今まで演劇に触れたことのない人も、演劇好きも、日々に刺激が欲しいだけの人にも、『桜姫~燃焦旋律隊殺於焼跡』、お勧めです!

———————————————————————————————————————————
(写真左から)

谷口綾●たにぐち あや 前回は美術を担当、本公演では演出部をやっている。「演劇のスタッフになって10年、いまだにただの演劇ファンです」

村岡希美●むらおか のぞみ 俳優。『ナイロン100℃』所属。本公演では〈長浦〉を演じるほか、物販部、ご飯部を担当。「ふたつの劇団の劇団員 村岡希美です」

富岡晃一郎●とみおか こういちろう 俳優。『ベッド&メイキングス』主宰。本公演ではSNSの一部と宣伝、広報も担当。「今作は骨太な俳優陣と生演奏が見どころ。生命力だだ漏れの人たちを見に来てください」

  • 出演 :阿佐ヶ谷スパイダース  あさがやすぱいだーす

    1996年、長塚圭史と伊達暁が〈演劇プロデュース・ユニット〉として旗揚げ、後に中山祐一朗も参加。およそ20年後の2017年5月、より自由に、より幅広く活動するために創作コミュニティとしての〈劇団〉に刷新。それを機に新たにオーディションを経て新メンバーが加入、さらにスタッフも合流した。

  • 公式ホームページ・http://asagayaspiders.com/

  • 【公演情報】『桜姫~燃焦旋律隊殺於焼跡』(さくらひめ~もえてこがれてばんどごろし)
    作・演出:長塚圭史 原作:4代目鶴屋南北 音楽:荻野清子
    出演:大久保祥太郎、木村美月、坂本慶介、志甫真弓子、伊達暁、ちすん、富岡晃一郎、長塚圭史、中山祐一朗、中村まこと、藤間爽子、村岡希美、森一生、李千鶴
    2019年9月10日(火)~28日(土)吉祥寺シアター
    託児サービス、プレトーク、スペシャルプレトーク、バックステージツアーなど詳しくは阿佐ヶ谷スパイダース公式ホームページへ

    公演詳細について→ http://asagayaspiders.com/

  • YEOからお知らせ:YEO専用アプリ

    このYEOサイトにダイレクトにアクセスするためのスマホ・タブレット用の無料アプリです。
    とてもサクサク作動して、今まで以上に見やすくなります。ダウンロードしてください。
    iOS版 iOS

    Android版 Android

  •  

    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。
    br>

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/