『桜姫~燃焦旋律隊殺於焼跡』の見どころを作・演出の長塚圭史に聞いたら、最初に彼が口にしたのは「音ですね、楽隊、生音!」という言葉だった。他にもいろいろ新しい試みはあるものの、常に舞台に流れる〈音〉が、本公演のキモらしい。それを担当するのがこの4名。全員、オーディションを経て昨年から劇団員となった。
ちすん 5月頃かな、劇団から声がけがあって、〝家になにか楽器がある人は持ってきてください〟って、それでみんな持ち寄ったんです。私は家にウクレレがあったから持っていったんですけど、そのままウクレレ担当になりました。でもその楽器は夫の持ち物で、私自身はまったく弾けないんです!(笑) もう仕方ない、一から練習して、やっと今、なんとか。
李 私は中学校のときに1年くらいクラリネットをやっていて、ドシラソ、ソラシドレミ、くらいのところだったら指も楽だし、吹けるんです。ちょろっと他の公演で吹いたこともあるんですけど、ゴマカシゴマカシやってきたんですよ。でも、クラリネットを吹ける劇団員がいる、そうか、と、圭史さんはそこから発想したみたいで(笑)。今回、完全なる音楽とメロディ、こんなに練習してるのは初めてです。
木村 私だって、小学校のときピアニカが全然吹けなくて、居残りさせられて、でも最後までダメで吹けない子だったのに(笑)。でも今回、練習してるうちに少しずつそのイヤな気持ちが消えてきました。低レベルな自分との戦いを積み上げています。
森 僕が阿佐スパに入ったきっかけは、圭史さんがやりたいことに興味があったから、なんです。ダンサーさんと作品を作ったり、〝演劇における身体〟に興味がある人なんだなと思って、自分と関心の方向性が近いと思って、阿佐スパに参加しました。・・・・でも音楽は僕、向いてない。向いてないけど、頑張ってやってます!
 舞台稽古をちょっとだけ覗いてみたら、なるほど、楽隊の音が効いている。通奏低音のように楽隊の音は重要な台詞でありト書きであり。舞台美術のように、照明のように、たしかに楽隊の存在は、この舞台のキモだ。
 新入りとはいえ、それぞれみんな、自分で立ちあげた劇団やカンパニーで演劇を追求してきた人ばかり。劇団『阿佐ヶ谷スパイダース』で割り振られた〈楽隊〉という役割に、とまどいながら、あわてながらも、食らいつこうとしている。
ちすん 他の現場ではマネジャーだったり事務所の人間が介入してくるのが当たり前なんですけど、ここでは全然違います。俳優たちがみんな、個人として劇団に付き合っているんです。すごく自分が自立していないとダメだし、だからこそ、仲間意識とか一体感を感じられますね。今まで経験したことのない、舞台装置の搬入とか裏方のスタッフワークとか物販とか、けっこう大変です。でもまあ、自分たちでやっている感じが、楽しい。大変だし楽しいし大変だし楽しいし。ま、楽しいだけではないんですけど(笑)。
森 それに、ここにはいろんな人間がいるので、自分ひとりの可能性を超えて今まで以上の展開をどんどんできる、そういう可能性のある場所だと思うんです。舞台監督、美術や照明などスタッフさんとか俳優以外のクリエイションができるので、そういうのが楽しいですね。
木村 この間初めて、自分の作・演出で小さな公演をしてみたんですけど、そういう、劇団の外でいろいろやりたいことをやっている分、ここに持ち込めるものが増えるんじゃないかと思っていて。外回りで成長しながら、いっぱい持ち込める人間になって、楽しく生きていきたいです。
李 この作品、本当に圭史さんの脚本が面白いんですよ。響く台詞がたくさん。原作の歌舞伎の派手さとスペクタクルな感じがあるし、装置や美術もすごいカッコ良くなるみたいだし。そういう華やかさと繊細さをちゃんと体現できる楽隊でありたいです。芝居と美術と音楽、全部ひとつの世界になるような。そうじゃないと、もったいないと思うんです。
 で、タイトルは、難しい漢字のルビをよくよく見てみると、『燃えて焦がれてバンド殺し』。バンドの皆さん、殺されちゃうの?
全員 それは見てのお楽しみ、です!

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(写真左から)

ちすん●ちすん 俳優。『よしもとクリエイティブエージェンシー』所属。本公演では楽隊長、ウクレレ担当。「世界一のノンストレス女!!」(YEO2019年6月3日~7日掲載)

木村美月●きむら みつき 俳優。自身で作・演出の演劇活動も展開中。本公演ではピアニカを担当。「ちょっと間抜けな本好き女、木村美月25歳です」

森一生●もり いっせい 俳優。他に青年団にも所属。所属事務所はレトル。本公演では太鼓を担当。学生時代はアイスホッケーをやっていた。今も10キロ以内の移動には自転車を利用、体力を維持しているとか。「基本的にネガティブだから、がんばってポジティブに生きていきたいです」

李千鶴 ●りー ちづる 俳優。演劇ユニット『Théâtre MUIBO』のメンバー。本公演ではクラリネット演奏のほか、パンフレット制作も担当。「鰻が好きです。パンフレット買って下さい!」