そして彼女が、桜姫。劇団『阿佐ヶ谷スパイダース』の公演『桜姫~燃焦旋律隊殺於焼跡』(さくらひめ~もえてこがれてばんどごろし)でヒロインの桜姫を演じる藤間爽子だ。2年前にオーディションを受けて『阿佐ヶ谷スパイダース』の一員となった。そして、
「ちょうど1年前、『MAKOTO』の公演中、お当番で朝早くお米をといでいたときに、演出助手の山田さんからぽろっと、〝来年、『桜姫』の公演で桜姫をやってもらうから、よろしくね〟って。本当にさらっと言われたので、〝えー! 本当ですか?〟とびっくりしました。こんなレベルの高い、大活躍している役者の皆さんの中で、演技の基礎も習っていないような私が主役として演じるなんて、不安でしかなかったです」
 そうは言っても長塚圭史はじめスタッフ一同、いい加減に彼女を選んだわけじゃない。舞台に出ると、その真価がわかる。舞台の真ん中に立って臆することなく、客席の視線を一身に集める〈華〉がある。客席の隅々まで届く〈気〉がある。彼女は幼い頃から修練を積んだ、日本舞踊家なのだ。
 お芝居もやってみたい、と思い、大学を卒業する頃からさまざまなオーディションにトライ。2017年NHKの朝ドラ『ひよっこ』で、主人公・みね子が住むアパートの大家、白石加代子が演じた立花富の若い頃を演じて、一躍話題に。その後もCMや舞台に、少しずつキャリアを重ねてきた。
「そんな中でマネジャーさんが、こんなのがあるよ、と教えてくれたのが『阿佐スパ』の劇団員募集でした。そんなにガチガチな劇団ではなさそうですし、年に1回、やりたい人たちが集まってやりたいことをやろう! みたいな感じだったので、演劇を勉強する上でもいい機会なのかな、と。もちろん受かると思っていなかったんですけど、演劇の経験もありませんでしたし。でも、受かったんです」
 ちなみに彼女、祖母はあの藤間紫さん。日本舞踊家(紫派藤間流家元)であり、女優としても大活躍、二代目市川猿翁の妻となった人だ。10年前に亡くなってしまったけれど、晩年まですっごくチャーミングな女性だった。父親は元俳優でスーパー歌舞伎をプロデュースした藤間文彦さん、母親は女優の島村佳江さん。
藤間爽子自身、数年後には紫派藤間流の家元を継ぐことになっている。
「そういうこと、あまり自分からアピールはしませんが、ついて回ってしまうものなので、隠す必要はないかな、と思っています。それを含めての私だと思いますし」
 そんな彼女が演じる桜姫、いったいどういうヒロインなのだろう?
 もとになっている『桜姫東文章』の原作者は鶴屋南北。エロスたっぷり、グロテスクどっさり、ナンセンスな展開で客席の度肝を抜く天才戯作家だ。歌舞伎の演目の中でも『桜姫東文章』は人気が高い。
「原作では、桜姫は悪党に犯されて、そこからすごい運命に巻き込まれ翻弄されます。どちらかというと桜姫は、受け身なんです。でも長塚さんの書いた今回の桜姫は、自分の妄想がすごくて、その妄想を抱えながら運命を自分で切り拓いていく。こうあるはず、こうあるはずって、どんどん人を巻き込んでいきます。長塚さんには〝無意識過剰に演じてごらん〟と言われました。私自身も、あまりまわりを見ずに、人目を気にせず、好き勝手やってしまう人間なので、そのへんは似ているのかもしれません」
 桜姫は、地で演じる?
「多分、そうです。日本舞踊家で劇団に入っている人はいないだろうし。いろいろと言われることもありますけど、気にしません(笑)。自分がやりたいことを、やってみようと思います!」

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藤間爽子●ふじま さわこ 役者 2年前にオーディションを受けて『阿佐ヶ谷スパイダース』に参加。本公演の稽古中は〈子ども係〉として託児所の見回りを担当。
「早速売り飛ばそうというのですか? 悲しい・・・・。藤間爽子です。がんばります」