ローマ・イタリア管弦楽団との共演は、吉俣良にとって衝撃的な出来事だった。
「コンサートでオーケストラの音を聴いてリアルに泣いたのは、初めてでした。彼らはそんなに巧いわけじゃないんです、プレイヤーとして。でも感動する。音楽って、そうなんですよ。どこがどう違うのか、たとえば日本のオーケストラだったら、プレイヤーは自分の個性を生かしつつ、9は指揮者やコンサートマスターに合わせる。比率は1:9なんです。でもイタリアのあの人たちは周りに合わせるけど、自分の個性も主張する。9:1です。日本の真逆です。指揮棒ふると、それがよくわかります。日本のオケは譜面通り、音が揃っているから端正で素晴らしい演奏で、だから音がカタマリで聞こえるけど、イタリアのオケは、特に弦楽器の音がみんなバラバラ、誰がどの音を弾いているのかまで、わかる。ある種、ヘタウマ、とも言える。でもそれを観客席で聴くとバラバラどころか、心に響く音になっている。感動が伝わってくるんです」
 実はローマ・イタリア管弦楽団は、彼が愛聴するモリコーネのサントラ盤の演奏もしている人たち。そのことを知って、吉俣は〝ぞわっとした〟とか。
「すごく良い経験をしました。でも反面、困ったな、とも思った。この先、オーケストラと組んだコンサートをいくつか企画しようと思っていたんですが・・・・。日本のトップ・ミュージシャンを集めたらすごい完成度の高い音になると思うんですけど、でもね、そこじゃないような気がしてきた、僕の音楽は。あのローマ・イタリア管弦楽団とやってしまったら、もう他の選択肢が見当たらない。あとはもう、再演を願うばかりです(笑)」

  • 出演 :吉俣良  よしまた りょう

    作曲家・編曲家・音楽プロデューサー。1959年鹿児島県生まれ。横浜市立大学在学中より本格的にプロとして音楽活動をスタート。84年から92年までロックバンド『リボルバー』のキーボードを担当。その後レコーディングミュージシャン、アレンジャーとしてさまざまなジャンルの音楽を手がけた。97年から数多くの民放ドラマのサウンドトラックを担当、『空から降る一億の星』(2002年)『Dr.コトー診療所』(2003年)『風のガーデン』(2008年)など人気ドラマの原動力となる一方、NHK朝の連続ドラマ『こころ』(2003年)の音楽を担当した。また『冷静と情熱のあいだ』(2001年)『バッテリー』(2007年)『四月は君の嘘』(2016年)『あのコの、トリコ。』(2018年)などの映画音楽も手がけている。とりわけNHK大河ドラマ『篤姫』(2008年)は評価が高く、オリジナルサウンドトラックとして異例のヒットを記録。2年後の2011年再び大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』に登板、好評を博した。さらに近年はアーティストのアレンジを担当するなど編曲家としても活動するほか、ソローアーティストとしての活躍も期待されている。

  • オフィシャルHP・http://www.yoshimataryo.com/

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/