映画『宝物の抱きかた』は上映後にトークショーがあり、出演者たちと観客との交流があります。そこで榎本監督が観客に必ず訊くのは「兄と弟、どちらに感情移入しましたか?」という質問。

「なかには、お兄ちゃんに共感するけれど、憧れ込みで弟に共感する、という人もいます。そういう感想を聞くと、みんな本当は(弟みたいに)自由にやりたいんだな、と嬉しくなります」

 この映画を通して伝えたかったことはひとつ。「好きなことを好きと叫べる世の中にしたい」ということ。

 ある日の上映後、映画を観た高校生に「もっと好きなことをしていいんですかね」と話しかけられて愕然としたという榎本監督。まだ高校生なのに好きなことができないなんて。好きなことをいつの間にか忘れてしまうなんて。

 映画の中で「宝物とは何か」という答えは語られません。それでも、観た人それぞれが大切な‘何か’を胸の中に思い浮かべます。好きなことを「好き」と言えない世の中をこの映画で変えることができたら、という監督の気持ちは、きっと届いていることでしょう。

 6週間のロングランを果たし、ついに7週目も決まったという嬉しい知らせが届くなか、地方での順次公開も決まっているとか。もちろん、もっとたくさんの人に観て欲しい、ということで引き続き上映館を求めています。
 また、次の作品のオーディションも始まっているそうです。

「好きなことをこれからもずっとやり続けたい。そして、これからは嫌なこともやっていきたいなと。今まで、嫌なことはやりたくなかったけど、嫌なことも好きなことも、両方とも面白いじゃん、と思えるようになりました」

 『宝物の抱きかた』で映画監督デビューを果たした榎本桜さん。次回作では監督か、はたまた主役か、それとも……? 

  • 出演 :榎本桜 えのもと さくら

    映画『宝物の抱きかた』監督・主演。劇場を中心に俳優として活動していたが、2013年頃からインディペンデント映画やドラマなどの露出が増える。活動拠点にしている劇団チキンハートは旗揚げから4年半にして1公演で3000人を動員する。

    映画公式HPhttp://takaramono.net/

  • 映画『宝物の抱きかた』
    2017年公開。現在上映中。著名人からも好評で、口コミで延長上映を重ねて、吉祥寺ココマルシアターにて6週目という異例のロングラン。高崎映画祭『監督たちの現在−進取果敢な人々−』特別上映。第3回新人監督映画祭ノミネート。第三回岩槻映画祭招待作品。

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    取材/文:加藤いづみ

    コピーライター。東京都出身。成城大学文芸学部卒。広告、SP、WEBのコピーライティング、企画、コンテンツ開発のほか、企業のPR誌を定期的に編集・制作している。
    Facebookページ(不定期更新)https://www.facebook.com/mi.company/

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/