“自分が本当に好きなことは何だろう”自問した榎本桜さんの答えは、「映画」でした。それは、幼い頃、毎週末に映画を楽しんだ原体験のせいかもしれません。自分にとって大切なものとは……? 映画『宝物の抱きかた』は、観る人ひとりひとりに“大切なもの”を問う作品です。

10年ぶりに弟が帰ってきた。小さな子供を連れて。実家の家業を1人で継いでいる兄。自由に暮らした弟。2人には両親が居ない。
時に傷つき、時に受け入れられずに生きてきた。突然訪れた子供との出会いは兄弟の摩擦をほぐしていく。(『宝物の抱きかた』公式HPより)

 弟が連れ帰った子供ゆうきを演じているのは、坂川使音くん。撮影当時は5歳でした。「オーディションでは緊張して喋れなかった。そこが良かった」と言う監督。劇中ではほとんどセリフがありませんが、素顔の使音くんはハキハキと元気に話す男の子です。

 兄・直也を演じる長山浩巳さんは、奇遇にも高校の先輩だったとか。映画の中で弟・透に気づきを与える役であり、役者としてもチャンスやきっかけを与えてくれたそうです。ちなみに自由が丘のとあるお店(下記)に行くと彼に会えるかもしれません。

 映画の撮影場所は、榎本さんの故郷である千葉県佐倉市。東京から1時間程度の距離とは思えないのどかな風景の中で、淡々と描かれていく兄弟の日常。ところで榎本監督自身は、5人きょうだいの4番目だそうです。

「両親が見ていてくれないと怒るけれど、構われるとほっといて欲しい」

 まさに典型的な中間子! じつは、劇中で兄弟が暮らす家として登場する一軒家を見つけてくれたのは、榎本監督のお母さんだとか。撮影場所となった家の中は、時間が止まっているかのようにレトロな家財道具の宝庫で、細々と家業を続ける櫻井兄弟の暮らしにリアリティを与える絶好のロケーションです。兄弟、親子、夫婦といった家族に対して不器用な登場人物たちのように、監督自身も、まだ家族に素直になっていないかも。

 さて、家族や地元の方々の協力もあって撮影を終えた映画『宝物の抱きかた』ですが、私たちの目に触れるまで、もうしばらくの時間がかかりました。新人監督ゆえの茨の道はまだ続きます。

  • 出演 :榎本桜 えのもと さくら

    映画『宝物の抱きかた』監督・主演。劇場を中心に俳優として活動していたが、2013年頃からインディペンデント映画やドラマなどの露出が増える。活動拠点にしている劇団チキンハートは旗揚げから4年半にして1公演で3000人を動員する。

    映画公式HPhttp://takaramono.net/

  • 映画『宝物の抱きかた』
    2017年公開。現在上映中。著名人からも好評で、口コミで延長上映を重ねて、吉祥寺ココマルシアターにて6週目という異例のロングラン。高崎映画祭『監督たちの現在−進取果敢な人々−』特別上映。第3回新人監督映画祭ノミネート。第三回岩槻映画祭招待作品。

  • YEOからお知らせ:YEO専用アプリ

    このYEOサイトにダイレクトにアクセスするためのスマホ・タブレット用の無料アプリです。
    とてもサクサク作動して、今まで以上に見やすくなります。ダウンロードしてください。
    iOS版 iOS

    Android版 Android

  •  

    取材/文:加藤いづみ

    コピーライター。東京都出身。成城大学文芸学部卒。広告、SP、WEBのコピーライティング、企画、コンテンツ開発のほか、企業のPR誌を定期的に編集・制作している。
    Facebookページ(不定期更新)https://www.facebook.com/mi.company/

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/